我が敬愛するミュージシャンたち

Foreigner


 先頃フォリナーの『アンソロジー』が発売された。デビューから23年、全てのシングル曲を網羅し、バンドの中心人物ミック・ジョーンズとルー・グラムの各々のソロアルバムからの曲も収録した、正にコンプリートと呼ぶにふさわしい内容である。収録された音源の大部分が現在入手が比較的容易である、という点からみても、この『アンソロジー』は古くからの熱心なファンも、単なるヒットチャート好きも、そしてフォリナーを知らない世代の人も楽しむことが出来る内容である。要するにマニア向きではない、かなり広範囲の人にアピールする内容なのだ。思えば、デビュー直後から人気はあるものの、コアなロックファンを自称する人たちからはまともに評価さえされなかったフォリナーだが、この『アンソロジー』自体がそんな世間一般のフォリナーのイメージを象徴しているようである。

 世間の評価はともかく、フォリナーは僕にとって、思い出深いバンドである。今を去ること22年前、僕が初めて見たロックバンドのコンサートがフォリナーだったのだ。1978年4月4日のことである。場所は日本武道館。その前年、アルバムを一枚発表したばかりの新人バンドだったのだが、東京地区で唯一行われた武道館公演はほぼ満員だった。ライブそのものは正味一時間半くらい(アンコール含む)、僕は初めてのコンサートで興奮していたから、細かく覚えていないが、ドラムセットが2台置かれていて、ボーカルのルー・グラムが時々叩いていたこと、あまり音が良くなかったような気がしたこと、なんかは覚えている。オープニングは「ロング、ロング・ウェイ・フロム・ホーム」だった。ちなみに、この15年後の1993年2月に今度はNHKホールで僕はフォリナーのコンサートを見ているが、この時のオープニングも「ロング、ロング・ウェイ・フロム・ホーム」だった。確かにオープニング向きの曲ではあるのだけど、全然進歩してないと言う人もいるかもしれない。だが、1993年の時はアルバムも久しく発表していない時期で、コンサートの内容もヒットパレード的なものがあったので、まあ仕方ないと言えなくもない。

 でも、とにかく初めて見たロックバンドのライブはとても感動的であり、それ以来僕はフォリナーのファンになった。彼らは本格派と称する人たちから陰口を叩かれながらも、その後もヒットを出し続け、80年代終わりまでトップバンドの地位を保った。その後一時的に解散したり、ボーカルがルー・グラムからジョニー・エドワーズに替わったり、ルー・グラムが復帰するも脳腫瘍の治療でバンドを離れたり、と90年代以降のフォリナーは80年代までの快進撃が嘘のように、停滞を続けている。おかげで今も現役であるにもかかわらず、“あの人は今”的な扱いでしか話題にのぼらないバンドになってしまった。後追いで若いファンがついた、という話も聞かない。長年のファンとして、それはあまりにも淋しいことである。『アンソロジー』も出たことだし、そろそろ他のベテランバンドと同じくフォリナーにも追い風が吹いてきてもいいはずだ。

 だからという訳でもないが、フォリナーというバンドを、そのオリジナルアルバムを通じて振り返ってみたい。

 
 1977年、デビュー
 メンバーは、ルー・グラム(Vo)、ミック・ジョーンズ(G)、イアン・マクドナルド(G,Key,Woodwinds)、アル・グリーンウッド(Key)、エド・ガリアルディ(Bs)、デニス・エリオット(Ds)の6人。イギリス人3人、アメリカ人3人という構成からフォリナーというバンド名になった、という説があった。

FOREIGNER〔栄光の旅立ち〕 1977  ☆☆☆
FOREIGNER
記念すべきファーストアルバム。とても親しみやすく、分かりやすいロックである為、衝撃のデビューという感じは当時もしなかったが、今聴いても飽きさせない優れたアルバムである。とにかく、曲が良い。いきなり全米TOP10入りを果たした「衝撃のファースト・タイム」「つめたいお前」はもちろんのこと、他の曲も名曲揃い。フォリナーの曲で好きな曲を10曲挙げろ、と言われたら半分以上がこのアルバムの曲になるのではないか、と思われるくらい佳曲が多い。個人的にはミック・ジョーンズがボーカルをとる「ウーマン・オー・ウーマン」「お前に夢中」といったミディアムバラード風の曲が気に入っている。

DOUBLE VISION〔ダブル・ビジョン〕 1978  ☆☆☆
DOUBLE VISION
ファーストアルバムがベストセラーになり、グラミーの新人賞にもノミネートされたフォリナーだが、そのプレッシャーをはねのけこのセカンドアルバムもベストセラーとした。基本となる音楽性はファーストと変わらず、こちらもいい曲が並んでいる。アレンジ、演奏とも堅実という印象。このアルバムの日本版ライナーで渋谷陽一が「どの曲も平均点以上」と評した手堅さが、とても良い方向に出ていると思う。「ホット・ブラッディッド」「ダブル・ヴィジョン」の2大ヒットに代表されるハードな曲は、このあとのフォリナーの方向性を決定したのではないか。珍しいインストの「トラモンテイン」なども、変わった感じの曲で、いいアクセントになっている。

 サードアルバム録音前にメンバーチェンジあり。ベースがエド・ガリアルディからリック・ウィルスに代わった。この頃からフォリナーはよりソリッドでタイトなロックバンドになっていく。

HEAD GAMES〔ヘッド・ゲームス〕 1979  ☆☆☆
HEAD GAMES
メンバーチェンジを経て、すこし方向性を変えてきたかな、という印象のサードアルバム。ジャケットからして、今までのフォリナーのイメージとは違う。アルバム全体が非常にハードな感じにまとめられ、ルー・グラムのボーカルがエモーショナルで、これまでにない程素晴らしい。一皮剥けた感じ。ドラムの音の録り方なんかも明らかに変わっており、タイトでカッコ良い。例によってミック・ジョーンズがボーカルの「モダン・デイ」などは相変わらずポップだが、その他の曲はひたすらハードに迫る。個人的な好みでは「女たち」「17」など。今でも、バンドでコピーしたくなる位のカッコ良さに溢れている。そんな中で異色のアコースティック曲「灰色の別れ」がこれまた超名曲。

 そして、2度目のメンバー・チェンジ。イアン・マクドナルドとアル・グリーンウッドが脱退。4人組となる。イアンとアルの脱退について、ミック・ジョーンズは『アンソロジー』のライナーの中で、簡単に言えば「彼らが、フォリナーにおいて僕の求める事と違う事を志向し始めた」と語っている。

4〔4〕 1981  ☆☆
4
4人になり、4枚目のアルバムだから『4』、これ以上ないという分かりやすいタイトルのこのアルバムは、80年代初頭に売れまくり、同時期のジャーニーの『エスケイプ』と並んで、産業ロック隆盛の礎となるアルバムとして有名だ。イアン、アルの二人の曲者が抜けた事で、ミック・ジョーンズとルー・グラムの双頭体制が強まり、結果全編に渡りソリッドなハードロックが展開され、非常に爽快感のあるアルバムと言っていいだろう。個人的には当時かなり不満だったが、冒頭の「ナイト・ライフ」や第一弾シングルの「アージェント」などは今聴いても圧倒的にカッコ良い。別の意味での代表曲となった「ガール・ライク・ユー」などはわざとらしくて、好きになれないが。

AGENT PROVOCATEUR〔プルヴォカトゥール−煽動〕 1984  ☆
AGENT PROVOCATEUR
『4』の超特大ヒットのあとを受けて発表されたこのアルバムは、はっきり言って産業ロックの悪い面が全て出てしまった。シンセを多用した大甘なアレンジ、妙にセンチな曲調、サビを強調したあざとい曲作り等々、いくらフォリナー好きの僕でも、このアルバムは頂けない。プロデューサーに故アレックス・サドキンを起用し、クリアなサウンドはいいのだが、それだけにもっと曲を練り、ハードに攻めてきて欲しかった気がする。メンバーの中にも、この路線に対する不満があったらしい。「アイ・ウォナ・ノウ」が念願の全米Y1になったが、この曲を最初に聴いた時、リックは「くだらねぇ」と一言吐き捨てたそうだし。

 『プロヴォカトゥール』のあと、フォリナーは小休止に入り、ミック・ジョーンズはバン・ヘイレンのプロデュースを行い、ルー・グラムは初のソロアルバム『レディ・オア・ノット』を1987年に発表する。これが予想以上のヒットとなったことで、フォリナー解散説も出るが、それを吹き飛ばすように久々のアルバムを発表する。

INSIDE INFORMATION〔インサイド・インフォメーション〕 1987  ☆☆☆
INSIDE INFORMATION
おそらく、このアルバムの評価はかなり地味だろう。しかし、内容は素晴らしい。80年代、ほとんどフォリナーに関心がなくなっていた僕を、またファンに引き戻したアルバムといっていい。前作と違い、徹底してハードに攻めている所が小気味良い。久々にバンドとして弾けている、といった印象。曲もすごく良い。また、ハードロック一辺倒でもなく、メロウな曲もあり、これがまた良い出来なのだ。「アウト・オブ・ザ・ブルー」という初のメンバー4人が作曲者としてクレジットされるという、名曲まで生み出している。もちろん、「セイ・ユー・ウィル」のようなキャッチーなヒット曲もある。そしてどの曲にも統一感があって、それがアルバムの質を高めているのだ。

 この後、バンドは公に発表はなかったものの、解散状態となっていたらしい。メンバー間、特にミックとルーの対立はかなり深刻なものになっていたようだ。『インサイド・インフォメーション』は、そんなメンバーがバラバラの状態で録音されたらしい。で、ミック・ジョーンズはプロデューサーとしてビリー・ジョエルの『ストームフロント』を手掛け、そのかたわら初のソロアルバム『ミック・ジョーンズ』を発表する。また、ルー・グラムも二枚目となるソロアルバム『ロング・ハード・ルック』を発表、それぞれの道を歩む二人を見ていて、フォリナーは完璧に終わったと思っていた所へ、突然新作のニュース。なんと、ボーカリストにルー・グラムではなく、ジョニー・エドワーズを迎えて、フォリナーが再始動したのだ。

UNUSUAL HEAT〔アンユージュアル・ヒート〕 1991  ☆☆
UNUSUAL HEAT
正にボイス・オブ・フォリナーであったルー・グラムの代わりに違うボーカリストを立てる、というのはミック・ジョーンズにとって大英断だったはずだ。その試みは一応成功したと言っていいと思う。新加入のジョニー・エドワーズも仲々の実力派だ。ルー・グラムとは違う個性がある。新生フォリナーのスタートとなったこのアルバムも悪くない。ただ、曲のパターンがあまりにも産業ロック的過ぎるのが、僕としては気に入らない。よく聴いてると、今までのミック・ジョーンズの曲作りのパターンと少し違うような気がするので、共作者兼プロデューサーのテリー・トーマスの趣味ではなかろうか。でも、全体的には勢いもあり、再出発に賭ける意気込みも十分。

 この後、いつの間にかルー・グラムが復帰し(ブルース・ターゴン、ヒビアン・キャンベルらと結成したシャドウ・キングもうまくいかなかったらしい)、新曲3曲を含むベスト盤『The Very Best Of...And Beyond』を1992年に発表。唐突なルーの復帰で追い出された感じになったジョニー・エドワーズは、今どうしているのだろう。ま、それはともかく、1993年フォリナーは久々に来日公演を行う。前述のように、ヒット曲のオンパレードであったが、衰えを知らぬルー・グラムのボーカルは素晴らしかった。いやでも新作に期待せずにはいられない。

CLASSIC HITS LIVE〔クラシック・ヒッツ・ライブ〕 1993  ☆☆
CLASSIC HITS LIVE
新作を期待していたのだが、先にバンドの集大成的ライブ盤が出た。デビュー直後から80年代中頃の絶頂期にかけてのライブ音源が収録されており、特に6人組時代の音源には感激した。できたら、こういうダイジェスト形式でなく、一枚のアルバムとして70年代のライブを出して欲しい。話がそれたが、タイトル通りヒット曲のほとんどがライブバージョンで聴け、行ったばかりの来日公演の興奮が蘇ってくる。個人的には「お前に夢中」が聴けるのが嬉しい。決して技術レベルの高いバンドではないのだか、ボーカルの圧倒的な魅力、統率のとれたバンドサウンドで引き込まれる。コーラスがレコードほど上手でないのもご愛敬ってことで。

MR.MOONLIGHT〔Mr.ムーンライト〕 1994 ☆
MR.MOONLIGHT
レコード会社を移籍し、久々に出た新作。ルー・グラムの声が聴けるアルバムとしては7年振りだった。が、いざ聴いてみてがっかりした。とにかく面白くない。曲も大した事ないし、演奏もどうってことない。ルーのボーカルが熱いものを感じさせるだけだ。上手いボーカリストが歌うと、どんな駄曲でも素晴らしく聞こえるが、このアルバムに限っては曲の質が低過ぎる。さすがのルーでも、これではどうしようもなかろう。ルー、ミック以外のメンバーを代え、環境も変えて心機一転で望んだはずなのに、その結果がこれではあまりにも情けない。フォリナーなんかとうに終わったのさ、なんてアンチ組は言うだろう。それがまた、くやしい。こんな程度じゃないはずだ。

 残念ながら、『Mr.ムーンライト』以降、フォリナーはパッとした活動をしていない。なんでも、ルー・グラムが良性の脳腫瘍の治療に専念したりしてて、バンドとしては思うように活動出来なかったらしい。でも、解散した訳ではないようだ。『アンソロジー』のライナーでも、ミック・ジョーンズが前向きな姿勢を見せている。決してこのままで終わってしまうバンドではないはずだし、若い時からショービジネスの世界で生きてきたミック・ジョーンズの経験が今こそ生きる時だろう。フォリナーのようなタイプのバンドが、現在のミュージックシーンでは一番苦戦を強いられるであろうが、必ずや彼らは一線に戻ってくるはずだ。僕はそう信じている。かつて僕を熱狂させた名曲たちに匹敵する名曲を携え、フォリナーは必ず復活する。『アンソロジー』はその為の総括であると同時に、序章でもあるのだ。


NOTE 2000.10.14



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