最近のお気に入り
(バックナンバー6)
CD、小説、映画など流行に関係なく、また新旧を問わず
最近気に入ったものを紹介します。
=音楽関係
=書籍関係
=映像関係
ハヤブサ/スピッツ
御存知のように、今年の夏に既に出ていたアルバム。今年も終わろうか、という時期に
なってようやく買った訳だ。内容については素晴らしい、の一言。文句なしの名盤で
ある。
このアルバム、ファンやメディアの間では賛否両論だったらしく、僕も雑誌でこの『ハヤブ
サ』に対しての評は読んでいた。賛の意見としては、サウンドがカッコいい、意欲的に新
しい試みをしている等々、対して否の意見は、新たな試みが空回りしている、こんな音は
似合わない、イメージが変わりすぎといった所か。僕は昔からスピッツを聴いている訳で
はないので何とも言えないが、シングル曲のイメージとそんなにかけ離れているとは思え
なかったので、似合わないという批判はすごく不思議に感じた。
僕の聴いた限りでは、草野正宗の作る曲も根本的には大きな変化はないし(しかし、この
人とてつもないメロディメーカーだ)、スピッツは元々パンクバンドだったなんて話も聞い
ているので、ダイナミックなバンドサウンドも奇異には感じない。むしろ、草野の影に隠れ
がちだが、他のメンバーもかなりの力量の持ち主と、注目していたつもりだ。確かに、
洋楽のエッセンスはかなり濃くなってるとは思うが、瞬間の思いつきを大事にしながらも
、凝ったアレンジにしているあたり、バンドとしての実力を感じる。少なくともミスチルみた
いに“狙った”感じになっていないあたりがいい。洋楽的な音ではあるけれど、草野正宗
独特のメロディと詩が絶妙にマッチして、洋楽もJ−POPも関係ない、正にスピッツの音
である。これは、本当に素晴らしいことだと思う。独自の音とイメージを確立している
スピッツを、もっとロックバンドとして評価しようよ。
しかし、これだけ素晴らしいアルバムでも受け付けない人がいる訳で、もしかして椎名
林檎あたりと同じく、洋楽マニアには受けるサウンドだけどね〜、なんて言われているの
だろうか。詞曲における感性の衰えをサウンドメイクでしのいでいる、すぐ洋楽コンプレッ
クスを丸出しにするのがJ−POPの悪いくせだ、とか何とか。大きなお世話だ。僕はこの
『ハヤブサ』を声を大にしてお薦めする。洋・邦問わず、ロックファンを自認するなら必聴
のアルバムだ。
NOTE 2000.12.8
THE SOLO COLLECTION/FREDDIE MERCURY
ついに手にした、フレディ・マーキュリーのボックス。豪華な装丁にまず満足。中味も申し
分ない。ファンなら大満足だろう。日本版限定3500セットが予約のみで完売してしまっ
た、という新聞記事を読んで、クイーンのファンはまだまだ日本に大勢いるのだなぁ、と
非常に感動してしまった。どうも、昔ジャーナリズムや自称本格的ロックファンにやたらと
攻撃されていた時のイメージが今だに抜けなくて、クイーンは日陰者のバンド、という気
がしてしまう。実際にはそんなことは全然ないのだけれど。
ま、とにかく、CD10枚+DVD2枚というボリュームなので、一通り聴くのに結構時間が
かかった(DVDは未見)。オリジナルアルバム2枚のデジタルリマスターによる復刻も
嬉しいが、個人的にこのボックスの目玉だったのは、フレディがクイーンとしてデビュー
する直前にラリー・ルレックスという変名で発表したシングルが収録されていることである
。オフィシャルでは初CD化らしいが、今回初めて聴いた。が、素晴らしい。フレディの声
が若い。正にファーストアルバムの声だ。やや線が細くて、高くて、ちょっと中性的な感じ
で、妙に艶っぽくて、というあの声。いいですよ〜。曲はビーチ・ボーイズとキャロル・キン
グのカバーで、ウォール・オブ・サウンドにフレディのボーカルがとてもいい感じ。これが
聴けただけでも、僕にとっては3万円の価値あり!ってなもんです。
もちろん、他も大変良いのだが、僕としてはやはり未発表テイクやデモ・バージョンより、
完成品として発表されたオリジナルアルバムやシングルの方がいい。完璧主義者として
知られたフレディだけに、制作途上の音源を公開するのは嫌だったのでは、なんて思っ
たりもするし。完成品の完成度(変な言い方だ)がとにかく素晴らしくて、それを聴いて
いるだけでもフレディの凄さがよく分かって十分なので、未発表音源を集めた『レアリティ
ーズ』と題された3枚は、本当に熱心なファン向けだろう。そこまでではないけど、聴いて
みたいという人には、3枚組の『ベスト・オブ・フレディ・マーキュリー』をお薦めする。これ
なら、予約しなくても店頭で手に入ります(笑)。
NOTE 2000.12.2
炎都/柴田よしき
またまた柴田よしきなのである。ここ2週間くらいの間にこないだ紹介した『紫のアリス』
を含め、3冊も柴田よしきの本を読んでしまった。非常に良質なエンタテインメントで、
一気に読めるのである。この『炎都』は、突然の災厄に見舞われる京都を舞台にした
いわゆる伝奇ファンタジーである。ま、要するに、平安時代に有名な陰陽師・安倍晴明
によって封じ込まれていた火妖族が1200年の時を経て蘇り、京都を滅ぼさんとあの手
この手を仕掛けてくる。京都は外界との接触を断たれ、魑魅魍魎が跋扈する魔都にされ
てしまうのだが、そこで火妖族と敵対する水神の力を借り、京都を取り戻そうと人間たち
が戦うというストーリー。この手の伝奇ものにはよくありがちな設定で、それほど伝奇もの
を読んでいない僕にも、さほど目新しいアイデアはなかったように思うが、それでも面白
いなら成功だ。ハラハラドキドキ、そしてかなりユーモラス。正確な知識とデータに支えら
れたストーリーの面白さ、個性的な登場人物たち(妖怪含む)、結末もすごくいいし、封印
・輪廻転生・五芒星などの伝奇ものには欠かせない単語もあちこちに出てくるし、正に文
句のつけようがない超一級の娯楽小説。‘買い’である。僕など、電車の中で『炎都』を
読んでいて、あまりに熱中し過ぎて降りるのを忘れてしまった(笑)。
柴田よしきの事を知らない人も多いだろう。名前からは分かりにくいかもしれないが、
女性である。奔放な女刑事を主人公にした『RIKO−永遠の女神』で横溝正史賞を受賞
、この‘RIKO’シリーズ、他に『聖母の深き淵』『月神の浅き夢』と出ているが、どれも
傑作、お薦めだ。柴田よしきはこの『炎都』のあとがきで、「非常に生真面目な姿勢で
小説を書くことはとても意義のあることだが、奇想天外や荒唐無稽を楽しむことも小説の
醍醐味だと思う」と語っており、いつまでもその姿勢を保ちつつ、純粋に面白い小説を
書き続けてほしいと、僕は思う。皆さん、是非柴田よしきの作品を読んで下さい。絶対
面白い、保証します。
NOTE 2000.12.1
異形家の食卓/田中啓文
タイトルは「伊東家の食卓」をもじったものであろうか。不勉強ながら知らない人だった
のだが、田中啓文という新進ホラー作家初の短篇集なのだそうだ。しかし、新進とは
いっても僕と同い年だ(笑)。この世界では30代はまだまだ駆け出しらしい。
で、これが実にグロテスクな短篇ばかりなのである。タイトルから連想されるほど食に
関する短篇ばかり、というのではないが、とにかく気持ち悪い。けど面白い。でも、食事
中とかには読まない方がいいだろうな。でも、僕は食事中にこの本のことを思い出して
しまった。一瞬、箸が止まったね(笑)。なので、面白いけどあまり他人にはお薦めでき
ない。勇気のある人は読んで下さい(笑)。
ホラー作家というだけあり、異次元の生物を料理してしまう「新鮮なニグ・ジュキペ・グァ
のソテー。キウイソース掛け」や、海で遭難した少年が気色悪い体験をする「オヤジノ
ウミ」などにクトゥルー神話シリーズで知られるラブクラフトの影響が感じられる。そういう
マニアックな楽しみもあり、単なるゲテモノではないことをお断りしておく。
NOTE 2000.11.24
紫のアリス/柴田よしき
ミステリー(推理小説)というフォーマットにおいて、やってはいけないこと、というか反則
というのがあると思う。物語の語り手(もしくは主人公の視点で物語が進行する場合に)
が真実を知っていながら隠す、というのがいい例だ。有名なアガサ・クリスティーの
『アクロイド殺し』は物語の語り手が犯人で、発表当時かなり顰蹙を買ったらしいが、
気持ちはよく分かる。『アクロイド殺し』の場合、語り手は自分に都合の悪い事実は巧み
に隠して物語を進行させた訳だが、もっとあくどいのは語り手が精神障害だったりとか
いう設定にして、何も分からない、理解できない、という形で進行させていく事である。
これだと、真相などいくらてもでっち上げる事が出来るし、論理的思考は何もなく、作者
の御都合主義だけで結末をどうにでも出来る。少なくともプロの作家の取る方法ではな
い、と僕は思う。
と、うだうだど書いてはみたが、反則だなぁ、なんて思いつつ熱中して読んでしまう事も
実はあるのだ。この『紫のアリス』もそういうタイプだ。主人公の女性の周囲で次々と
事件が起こり、本人は訳分からないのだが、実は事の発端は彼女の過去の行為にあり
ただ本人がその事実を心の中に封印してしまって思い出すこともないので、心当たりが
全然なく悩むのである。もちろん、最後に記憶が蘇り、事件の真相も明らかになるのだが
よく考えると色々な謎が未解決のまま残っていたりして、なんか消化不良のような感じで
物語は終わるのだ。詳しくは書かないが、ここいらがもどかしくもあり、また心地よくも
あり、実に妙な読後感を残す。ミステリーとしては邪道だと、評価が分かれるかもしれな
いが、こういうのもアリかも。僕は面白いと思った。
NOTE 2000.11.20
FURIA(OST)/BRIAN MAY
ブライアン・メイの久々の新作は『フーリア』なる英仏合作の映画のサントラだ。もちろん
映画は見ていないので、音を聴いて想像するだけだが、若いギャングの悲しい結末、な
んて感じがする。あくまで僕の想像なので、本気にしないように(笑)。
内容についてだが、サントラということもあり、あのブライアン・メイというイメージで聴くと
肩すかしを喰うだろう。独特のギターの音色やフレーズはわずかに顔を出すだけだ。しか
し、サントラとして聴けば非常に質が高い。核となるメロディがあり(これがまた絶妙なの
だ)、それを場面ごとに形を変えて提示していく、という手法は実にオーソドックスな映画
音楽の作り方であり、うまくイメージを喚起させることに成功している。最後に、そのメイ
ンテーマに歌詞をつけてブライアンが歌う曲が入っているのだが、こういうやり方も実にう
まいし、実際この曲もとてもいい曲なのだ。サントラの王道、つい映画が見たくなってしま
う。良質なサントラ盤はその映画への興味を沸きたたせるものなのだ。
先に出たエルトン・ジョンの『ハリウッド・ミューズ』もそうだったが、サントラというフォーマ
ットの中でも、自分の特性を生かしつつ映画の音楽として素晴らしいものを作れるロック
・ミュージシャンというのは意外といる。ブライアンもその一人だという事が、この『フーリ
ア』でよく分かった。今後幅広い活動が期待できそうで、ファンとしてはとても嬉しい。
NOTE 2000.11.18
YOU HAD IT COMING/JEFF BECK
来日間近、ジェフ・ベックの新作が出た。前作『フー・エルス!』から約一年半ぶり、
その前の10年間のブランクを思うと、信じられない程のハイペースだ。で、この新作が
また素晴らしいのである。傑作、名盤と呼ばせて頂こう(笑)。
あまりに素晴らしいので、くどくどと内容について書く事さえバカらしくなってしまう位なの
だが、一応少しは書いておくと、いつもの通りインスト中心で、バックトラックはほとんど
打ち込みのようだが、実に躍動感のあるサウントでこれに乗ってベックが縦横無尽に
弾きまくっている。独特の音色、意表をつくフレーズ、どれもベック印でカッコいい。ああ、
かったるい、とにかく聴いてくれ!(笑)
ジャケットを見ると、ジェフ・ベックは昔とほとんど外見に変化がない。相変わらずやん
ちゃなギター小僧といった感じ。その外見と同様、新しい物に挑戦していこうという姿勢も
変わってない。素晴らしいことだ。よく比較されやすいエリック・クラプトンやジミー・ペイジ
が、年を取ったら取ったなりの活動をしているのを横目に、ジェフ・ベックは若い頃のロッ
ク魂を今も持ち続けている。正にロック・ミュージシャンの鑑。老いも若きもプロもアマも、
ロックを志向するなら見習うべき存在である。
12月9日に僕はその衰えを知らぬ勇姿をパシフィコ横浜でたっぷりと拝ませて貰おうと
思う。この新作を聴いて、期待は高まるばかりだ。
NOTE 2000.11.17
カルチェ・ラタン/佐藤賢一
作者の佐藤賢一という人は、去年『王妃の離婚』で第121回直木賞を受賞している。
西洋の歴史に題材を求めた小説を書いている、という事くらいしか知らなかったが、この
『カルチェ・ラタン』も16世紀のパリを舞台にしたものだ。
しかし、この小説をどうやって紹介したら良いのだろう。確かに面白いのである。外国人
の書いた手記を翻訳する、というスタイルで話は進むのだが、その時代の雰囲気、空気
といったものが本当によく書けていると思う。もちろん16世紀のパリなんて見たことない
から、いかにもそれらしい感じで書かれている、ということなんだけど。でも、それが小説
家のテクニックであり、違和感なく読んでいられるのは、やはり作者の力量であろう。
さすがに僕も言葉が見つからないので、ここは帯に書いてある紹介文を引用させて頂く。
「1536年。セーヌ河左岸に広がる学生街、カルチェ・ラタン。
眉目秀麗、頭脳明晰な修道士と愚図で奥手の夜警隊長が遭遇する怪事件の数々。
捜査を進める二人の前に、やがてある人物の影が。
神とは? 信仰とは? 深遠なテーマに迫る本格的西洋歴史小説。」
うまい。見事にこの小説を表現している。さすがプロは違う。ほんとに、この通りの内容
です。で、とてつもなく面白い。お薦めです。とにかく、読んでみて、としか言いようがない
。余談だが、この小説の語り手は紹介文にもある“愚図で奥手の夜警隊長”であり、
僕がこの夜警隊長に大いに感情移入して読んだのは、言うまでもない。
NOTE 2000.11.13
JUST GO AHEAD NOW:A RETROSPRCTIVE/SPIN DOCTORS
最近名前を聞かないスピン・ドクターズだが、こういう風に突如ベスト盤が出ると解散
してしまうのでは? と不安になってしまう。J−POPと違い、海外ではアーティストの
ベスト盤とは、ある種の区切りをつける意味合いで出される事が多い。それこそ、解散
とか、レコード会社の移籍とか、長期休業に入るとか。まあ、あまりポジティブなイメージ
はないのである。そんな訳で、このスピン・ドクターズのベスト盤を手にして、僕は非常に
複雑な思いなのだが、中味は言うことなし。もし、スピン・ドクターズを聴いた事ない人が
いたら、是非買って下さい。もっとも、日本盤出るかどうか分からないけど...。
ファンキーで尚且つ泥臭いサウンドが持ち味のバンドだが、さすがにベスト盤だけあり、
そういう曲ばかりが入っていて、初めての人でもバンド像を捉えやすい。今時、スタジア
ムではなく、酒場で一杯やりながら聴くのが似合ってるバンドなんて、そういないだろう。
そういう意味では、パブロックとも共通する雰囲気を持ったバンドだと言っていいと思う。
以前に紹介したソウル・アサイラムとは音楽性が違うけど、共に古典的とも言えるロック
バンドならではのカッコ良さがあり、もっと多くの人に聴いて貰いたいと切望する次第
である。もちろん、バンドが存続してくれる事が第一なのだが...。
NOTE 2000.11.2
INTO THE LIGHT/DAVID COVERDALE
言葉は悪いが、ここ数年低迷していたデビッド・カバーデイルだが、25年以上のキャリア
を誇る不世出のボーカリストはやはり死んではいなかった。ソロ名義では実に久しぶりの
このアルバム、デビッド・カバーデイルの凄さを満天下に広く知らしめるものだ。
この人、やはりR&Bやブルースを根っこに持つ人で、決して様式HRの人ではない、
というのがよく分かる内容になっている。80代以降のホワイトスネイクのイメージとは
違うが並ぶが、これこそ彼が今歌いたい歌なのだろうし、それだけに説得力・表現力は
尋常ではない。その時その時の人気ギタリストと組んでバンド活動を続けてきたが、
ロックバンドにおける最大の武器は、やはり強力なボーカリストなのだ。そのことを改め
て認識させられる。カバーデイルはやっぱり凄い。こんな陳腐な言葉しか出てこない
くらい、このアルバムは素晴らしい。
バックの好サポートを得て、カバーデイルは生き生きと歌う。こんな彼の姿を見るのは
久しぶりだ。とても感動的である。しはらく低迷していた事は忘れよう。やはり、デビッド・
カバーデイルは偉大なボーカリストなのだ。
NOTE 2000.10.30