最近のお気に入り
(バックナンバー9)
CD、小説、映画など流行に関係なく、また新旧を問わず
最近気に入ったものを紹介します。
=音楽関係
=書籍関係
=映像関係
URBAN RENEWAL featuring THE SONGS OF PHIL COLLINS
フィル・コリンズの曲をアメリカのR&Bというか、アーバン系のミュージシャン達が
カバーしたアルバム。どうも、こっち系は疎いのだが(笑)、参加ミュージシャンの中の
リル・キム、JOE、モンテル・ジョーダン、ブライアン・マクナイトあたりの名前は知って
いた(あくまで知ってるのは名前だけ、音は聴いたことなし)。ま、要するにお洒落な
今風のブラコンなのだが、このサウンドがフィル・コリンズの曲に実にうまくはまって
いて、仲々よろしい。レインボー・ブリッジの夜景が見える部屋で彼女(彼?)を口説く時
のBGMには最適であろう(笑)
今のブラコンというと、打ち込みで作られたバック・トラック重視という傾向があり、
個人的にはどれも同じに聞こえて、あまり面白くない。が、こういう音にフィル・コリンズ
の曲がうまく合ってしまう、という事は彼の音楽はやはりR&Bの影響抜きには語れ
ないのだろう。あまりにセンチで好きになれなかった「アナザー・デイ・イン・パラダイス」
などは、クールなバック・トラックのおかげで、逆にメロディが際立って曲の良さを改めて
感じさせる出来になっている。「ワン・モア・ナイト」なんかもそうだが、フィル・コリンズの
レコードを聴いて感じられた甘ったるさが全くないのだ。全体的にバック・トラックが
クールにまとまっているからだろう。彼の熱心なファンが聴いても満足出来るのでは
ないだろうか。もちろん、フィル・コリンズを知らない人にもお薦めだ。平井堅あたりが
好き、という人には馴染みやすい音だと思う。
これを聴いて、フィル・コリンズを改めて聴いてみようかとレコード屋で彼のベスト盤を
手に取ってみたが、曲目を見たらやはり買う気にはなれなかった(笑)。どうせ聴くなら、
一枚目か二枚目あたりにしといた方がよさそうだ。
NOTE 2001.6.12
AH VIA MUSICOM/ERIC JOHNSON
先月ライブを見に行ったエリック・ジョンソンが1990年に出したアルバム。これがまた
ライブの感激を思い出させてくれる良い出来なのである。
僕はライブを見て、エリック・ジョンソンのギターもさることながら、ボーカルが気に入った
のだが、このアルバムはインスト曲とボーカル曲の配分が良く、僕のような者にはとても
聴きやすい。全曲エリック・ジョンソン自身が書いており、ギタリスト・ボーカリスト・ソング
ライターと3拍子揃った才能の持ち主である事を認識した。
ここで聴けるのは、正にジャンル分けが無意味なエリック・ジョンソン独特の音楽だと
言っていいだろう。ライブでも圧倒されたあの摩訶不思議なギターの音色は、この時点
で完成されており、その音がアルバム全体のトーンを決めている。この音色で弾かれる
と、どんなフレーズやコードも非常に摩訶不思議なものに聞こえてくるのである。ボー
カル曲を聴いてると、曲構成やコード進行などは確かにロックの範疇に入れてもいい
ものなのだが、エリック・ジョンソンがあの音で弾くと全く違う種類の音楽になってしまう。
これはちっとも大げさではない。正にエリック・ジョンソンにしか作り得ない唯一無比の
世界なのだ。ある種のカルチャー・ショックを感じる人もいるのではないだろうか。
この人を今まで知らなかったのが、残念に感じられて仕方ない、というのが現在の偽ら
ざる心境である。これからしばらくエリック・ジョンソンをヘビー・ローテーションだ(笑)
NOTE 2001.6.10
ACOUSTICA/SCORPIONS
ドイツが誇る国民的ロック・バンド、スコーピオンズのアコースティック・ライブ・アルバム
である。ポルトガルはリスボンで、今年の2月に録音されたらしい。
だいたいロック・バンドのアンプラグドというと、フォーク・ブルース的なものか、バラード
主体かのどちらかになるものであるが、このスコーピオンズの場合は後者であろう。
元来、90年代に起こったアンプラグド・ブームに対して、僕は懐疑的なのであるが、
このスコーピオンズに関しては原曲をほとんど知らないせいか、メロディの良さばかりが
耳に入ってきて、仲々良いのではないかと思う。バラードとはいえ、彼らの場合、昔から
マイナーコードの仰々しい泣き系が多いので、アンプラグドになると却ってあっさりした
感じになって、非常に聴きやすい。良い曲だな、と思うと原曲も聴いてみたくなったり
して、そういう意味ではこのアコースティック・ライブ、成功である。
何故、懐疑的なくせに、それも曲すらろくに知らないスコーピオンズのアコースティック・
ライブを買ったのかというと、それはもちろん、クイーンの「ラブ・オブ・マイ・ライフ」を
カバーしているからである(笑)。この曲について触れると、ピアノのみのシンプルな
バックで歌っており、とても良い雰囲気である。間奏をカットして、歌のみで進行して
しまっているのが、ちと妙な感じはするが。
しかし、それにしても、ボーカルのクラウス・マイネという人、本当にマイナー音階の
メロディが似合う人だ。感心してしまった(笑)
NOTE 2001.6.4
間違いだらけのビール選び/清水義範
またしても清水義範であるが、この『間違いだらけのビール選び』という短編集も
無茶苦茶おもしろい。清水義範の短編集の場合、大抵共通のテーマに基づいた作品が
並んでいるのだが、今作については、その傾向はなく一見共通点はなさそうな作品が
11編収録されている。とはいえ、共通点は確かにないが、一筋縄ではいかない作品
ばかりだ。
清水義範の凄い所は、どうという事のないアイデアを見事に小説に仕上げてしまう事だ、
と僕は思う。この『間違いだらけ〜』も、そういう清水義範の力量が生かされた作品
ばかりだ。わずかなアイデアを元に長編を書く人もいるが、一見どうってことないが深い
読後感を残す短編こそが清水義範の真骨頂である。くどいようだが、一度も清水義範の
本を読んだことない人は是非読んでみて欲しいと思う。僕の言う事が嘘ではないと理解
して頂けるだろう(笑)
毎度のことながら、一つ一つの作品について触れる事ができないのが実に残念だ(笑)
NOTE 2001.5.26
WINGSPAN HITS AND HISTORY/PAUL McCARTNEY
ポール・マッカートニーのウィングス時代の曲を中心に編集された2枚組ベスト盤である。
“ヒッツ”と題されたディスク1には代表的なヒット曲、“ヒストリー”というタイトルの
ディスク2にはポール自身のお気に入りナンバーが収録されて、計41曲。改めてポール
・マッカートニーという人の才能には恐れ入ってしまう。
熱心なファンの人からすれば異論はあるだろうが、ビートルズ以後のポール・マッカー
トニーの黄金期はやはりウィングスを率いていた70年代、それも後半だと思う。この
“ヒッツ”に収められた曲はどれもお馴染みの名曲ばかりなのだが、僕からすると一曲
一曲に何らかの思い出がある、という事に気づかされて驚いてしまった。さほど熱心な
ファンだった訳ではないのに、曲を聴きながら色々な事を思い出してしまうのだ。いかに
ウィングスのヒット曲が浸透していたかの証明だろう。ファンであったかどうかは別と
して、これだけあの当時思い出深いヒット曲を次々と放っていたアーティストといえば、
他にはカーペンターズかBCRくらいしか思い浮かばないくらいである。とにかく、現在
からすると短いインターバルでクォリティの高い曲を連発していたのには敬服する。
その当時の充実ぶりを知る者としては、80年代以降のポール・マッカートニーの作品
には不満である。あまり興味が持てない。普通に良い曲を出すだけの人になって
しまったような気がするのだ。過去の作品ばかり評価するのは良くない事だと分かって
いるが、「マイ・ラブ」「あの娘におせっかい」「しあわせの予感」といった曲に感じられる、
理屈を越えた普遍性というか輝きというか、「セイ・セイ・セイ」以降の曲はそういう魅力
に乏しいような気がしてならない。その意味では、今回のベスト盤はポール・マッカー
トニーがウィングスと共に光り輝いていた時期の曲だけが楽しめるので、個人的には
大変満足だ。
あと、どうでもいいことかもしれないが、今回のベスト盤、各曲の発表当時の邦題が
原題に戻されている。これは気に入らない。邦題は日本で原題とは関係なく勝手につけ
た物だから、という事なのだろうが、長い事親しんできたタイトルが無くなってしまうのは
寂しい。そのくせ「心のラブ・ソング」「夢の旅人」は邦題をそのまま使っているのは、
変ではないか。何考えてんのか。かつて、レコード会社の人が一所懸命考えた邦題を
排除するのは止めて欲しい。邦題だってポップスを楽しむひとつの手段なのだから。
NOTE 2001.5.24
TROUBLE IN SHANGRI−LA/STEVIE NICKS
妖精スティービー・ニックスの久しぶりの新作が出た。前作『ストリート・エンジェル』以来
なんと7年振りという訳だ。ま、近頃は一年に一枚ペースで新作を出す人なんてほとんど
いないので、2年や3年空いても驚かないが、でも7年は長い。前作以後、例のフリート
ウッド・マック再編ツアーなどで忙しかったらしいけど。
で、新作だが、別にわざわざ言う事はあるまい。スティービー・ニックスである。良いに
決まっているのだ(笑) あの鼻にかかった独特の声も健在だし(むしろ声が太くなった
ような気もする)、全体を貫く美意識のようなものにも変化はない。変化はないが、
ちゃんと新作らしい音がしていて、過去の作品の焼き直しなどでは断じてない。やはり
70年代から一線で活躍している人は違うのだ。さすがと唸らされる事間違いなし(笑)
前作がかなりアーシーな作りだったのに比べ、新作はロック寄りと言っていいだろう。
旧知のリンジー・バッキンガムやリック・ノウェルズの他、シェリル・クロウがプロデュース
した曲もある。どの曲もスティービーでなければ歌えないかのような雰囲気を漂わせ、
どっぷりと彼女の世界にひたらせてくれる。この辺は誰がプロデュースしても変わらない
独特のスティービー節である。結局、これが好きかどうかなのだな、彼女の場合(笑)
日本盤のライナーによると、この後スティービーはいよいよフリートウッド・マックの新作
のレコーディングに入るらしい。クリスティン・マクヴィーは不参加らしいが、あの『噂』の
メンバーによるマックの新作、楽しみだ。ついでに、来日公演も期待しよう。
NOTE 2001.5.20
禍記(マガツフミ)/田中啓文
田中啓文の本を読むのは2冊目だが、とにかく面白い。注目の作家ではないか。
いわゆる伝奇ミステリーという分野に属する人らしいが(よく知らなくてすみません)、
この『禍記』という短篇集も“マガツフミ”なる古史古伝に記載されている妖怪や怪異
現象がモチーフとなって物語が展開される、かなりオカルトがかった内容である。
それぞれの短篇については詳しく触れるスペースがないので省略するが、巻末の「伝奇
原理主義宣言」に書かれている通りの条件を満たした(作者オリジナルのトンデモネタ
がベースにあること、ストーリーが謎解き的に展開すること、オカルト・古代史・神話など
のモチーフが散りばめられていること、等々)正に本格的伝奇ミステリーと言って
よかろう。かなりグロテスクな描写も多いので、食事時(もしくはそれに近い時間)には
読まない方がいいだろうが、伝奇小説という括りをはずしても、エンターテインメントと
して一級の作品である事は間違いない。自信を持ってお薦めします。
NOTE 2001.5.12
KING OF THE JUNGLE/TRICERATOPS
昨今の日本のロック界では、僕が最も注目しているスリーピース・バンド、トライセラの
通算4作目。このバンド、若い割には自分たちの音楽性がしっかりと確立されており、
この新作も良くも悪くも聴き手の期待を裏切ることはせず、安心してトライセラの世界に
ひたる事が出来る。早くもマンネリなんて事を言う輩もいるだろうが、プロのミュージ
シャンである以上自分たちのサウンド・イメージを持っていて当然であるし、根強いファン
を掴むには必要不可欠な事なのだ。それにやはり若いバンドだけあって、良い意味で
周囲の雑音など気にしない所が感じられ、好き放題やっているように思えるのが、バンド
の演奏や音に勢いを与えているようだ。まだまだ未熟な部分はあるけれど、その一種
怖い物知らずの所が非常に清々しい。音楽性は異なるが、同じスリーピースという事で、
初期のグランド・ファンクに通じる物を感じたりしている。
今回は、メンバーがキーボードを弾いてみたり、メインソングライターの和田唱以外の
メンバーによる曲が入っていたりなど、少し目先を変えてはいるが、基本的にギター、
ベース、ドラムのみにこだわったサウンドは爽快だ。ややボトムを強調した骨太さを
感じさせるミックスになっているのが、最大の特徴かも。しかし、それにしても若いのに
(何度も言うなって)ここまでスリーピースにこだわる姿勢は立派だ。この志を曲げずに、
日本を代表するスリーピース・バンドになって欲しいと、オジサンは思うのである(笑)。
NOTE 2001.5.11
片想い/東野圭吾
東野圭吾の新刊は、またまた読み応えのある力作である。謎解きのスリルはもちろんの
こと、今回は‘性同一性障害’という重要なテーマを盛り込み、単なるミステリーでない
奥行きのある物語となっている。絶対損はしないので、皆買ってよむように(笑)
この手の小説はあまり内容について説明は出来ないのだが、この『片想い』の主人公は
フリー・ライターだが、大学時代アメフトの選手だったという設定になっている。物語の
冒頭、アメフト部の同窓会の場面があるのだが、そこでは大学生活最後のリーグ戦で
の敗戦が今だに話題にのぼっている。主人公はQBで、試合終了まであと8秒という
場面で左にいたタイトエンドがフリーだったのに気づかず、中央にパスを出してしまい、
結局その試合を落として優勝を逃すのである。青春時代にはよくある話だが、これだけ
で終わらないのが東野圭吾であり、よくある思い出話と思いきや実はこれが重要な伏線
であると読み進んでいくうちに分かるのだ。正にやられた、という感じである。
また、前述の通り、性同一性障害というテーマも盛り込んでおり、これは謎解きにも
大いに関わってくるのだが、男女の違いとは何か、性の区別にどういう意味があるのか、
などの問題について、読んでいくうちに真剣に考えさせられる。安易に答えが出ない問題
だけに、読み終わった後も頭の中にしっかりと残るのだ。くどいようだが、ただ面白い
だけではない、深みのある二読三読にも耐える小説である。やはり、皆さん読んで
下さい。一度読んでみて貰えれば、僕の言う事がちっとも大げさでないことを納得して
頂けるだろう。
NOTE 2001.5.2
偽史日本伝/清水義範
久々に清水義範である。毎度バカバカしいながらも、意表をついたアイデアで楽しませて
くれる人だが、この『偽史日本伝』も無茶苦茶面白い。タイトルからも想像出来ると思う
が、要するに日本の歴史上の重要な事件や人物を、独自の解釈や切り口でなんとなく
小説に仕立てたものである。邪馬台国は実はたくさんあった(おそるべし邪馬台国)、
テレビ中継される大化の改新(大騒ぎの日)、源義経はニセ者で牛若丸が本物の義経
だった(苦労判官大変記)、種子島に鉄砲が伝来して半年後には物真似好きな日本人
によって鉄砲のコピーが出回っていた(種子島であったこと)、坂本竜馬は池田屋事件で
21世紀から来た男のおかげで命拾いしそのまま未来へ行ってしまった(人生かし
峰太郎)、等々のテーマで短篇が繰り出される。真面目に歴史を勉強する人からは
怒られてしまうだろうが、当事者でない我々は本当の史実など分からない、ならば史料
を基に想像力を膨らませて遊んでしまえ、という訳だ。その目論みは成功し、面白いし
それなりに勉強になる短篇が14篇、本当に清水義範って大した人だ。決して悪ふざけ
にはなってないし。固い内容の本もいいけど、たまには清水義範の本を読んで、頭を
柔らかくしましょう。ボケ防止にもなるよ(笑)
NOTE 2001.4.25