最近のお気に入り
(バックナンバー12)
CD、小説、映画など流行に関係なく、また新旧を問わず
最近気に入ったものを紹介します。
=音楽関係
=書籍関係
=映像関係
13階段/高野和明
第47回江戸川乱歩賞受賞作だそうだ。この乱歩賞、歴代の受賞者を見ているとその後
名前を聞かない人もかなりいて、やはり継続していく事は大変なのだな、と思ってしまう
が、この高野和明という人、テレビドラマの脚本を書いたりしていたとかで仲々構成が
見事だし、今後に期待が持てるのではと感じた。
ま、文句なく面白い。新幹線の仲で一気に読んでしまった。傷害致死で刑務所に入って
いた青年が仮出所後、そこの刑務官(看守と言った方が通りが早いか)と組んで死刑囚
の冤罪をはらすべく調査を行う、という内容である。当然のことながら、調査を進めるうち
意外な事実が明らかになり、主人公の身に危険が迫り、そして真相が....という風に
書くとありきたりだけど(笑)、展開がスリリングでページをめくるのがもどかしい、と
いった感じである。一度読んでみて頂くしかないかな(笑)
ただ、この作品、単にサスペンスとしてよく出来てるだけではない。殺人を犯した者、
それによって生じる家族の苦しみ、被害者の遺族の悲しみと怒り、死刑を求刑した
検察官、数多くの犯罪者を見て自分も死刑を執行した事がある刑務官など、様々な登場
人物の眼を通して死刑は必要なのかそうでないのか、刑罰に何の意味があるのか、
前科者は本当に社会に復帰出来るのか、といった結論の出ないテーマをちりばめ、
考えさせられる内容となっている。ある意味、非常に重い内容の小説だ。面白いだけ
ではエンタテインメントとしては底が浅いのだよ。
色々勉強にもなるし、読んでみて絶対損はしませんので、是非お試し下さい(笑)
NOTE 2002.1.28
ONE MORE FROM THE ROAD Deluxe Edition/LYNYRD SKYNYRD
またしても古い作品で申し訳ないです(笑)
本作品は、オールマン・ブラザーズ・バンドと並ぶサザン・ロックの雄、いやアメリカン・
ロックの代表的存在でもあった悲劇のバンド、レーナード・スキナードが1976年に発表
した傑作ライブ・アルバムの25周年記念として編集された2枚組である。オリジナル版
にプラスして未収録のテイクなどを収録したもので、大半は既発表だが、アメリカン・
ロックの真髄とも言うべき豪快な演奏が楽しめる。アメリカン・ロック好きなら迷わず
“買い”であろう。正直言わせてもらうと、このライブ・アルバムを聴いた事のない人間に
アメリカン・ロック云々などと口にして欲しくない、それくらいの重要作である、と僕は断言
する。信じなさい(笑)
レーナード・スキナードといえば、1977年に飛行機事故でバンドの顔というべきVoの
ロニー・バン・ザントを失ってしまった事で知られる。悲劇のバンド、と言われるのはその
せいだ。80年代になってロニーの弟をボーカルに据えて復活し、今に至っている訳
だが、やはり全盛期の縮小再生産という感じは拭えない。現在のレーナード人気は、
このライブ・アルバムを頂点とする70年代の頃の彼らを知るファンによって支えられて
いる、という気がするのだ。残念だけど。
ま、しかし、これだけ豪快で小気味よく、しかもキャッチーでもあるロックを聴かせる
バンドなんて今では珍しくなった。彼らには伝説の「フリー・バード」という名曲がある
のだけれど、これ以外にこのライブ・アルバムで聴かれる曲はどれもカッコいい。個人的
には冒頭の「ワーキン・フォー・MCA」とそれに続く「アイ・エイント・ザ・ワン」あたりを
お薦めしたい。言葉も出ないほどカッコいいです、ほんと。
今回新たに追加されたテイクではMCもたっぷりで、ロニーがアンコールの前に観客に
「何が聴きたいか教えてくれ」と呼びかけ、それに応えて観客が「フリー・バード!」と叫ぶ
場面も収録されており、仲々感動的だ。古き良きロックを堪能するとともに、バンドと
オーディエンスとの幸福な関係をも窺い知る事の出来る名盤である。何度も言ってるが、
とにかく買いなさい、聴きなさい、そしてノックアウトされなさい(笑)
NOTE 2002.1.25
THE VERY BEST OF DARYL HALL & JOHN OATES
去年あたりからCMで「プライベート・アイズ」が流れていたホール&オーツの新編集の
ベスト盤。僕もCMで耳にしているうちにこのベスト盤を買ってしまったくちである(笑)
いやしかし、全17曲、一曲を除いてヒット曲ばかり、全米bPが6曲、TOP10ヒットが
8曲、残る2曲もTOP40入りしているという正に「ベリー・ベスト」の名がふさわしい
ベスト盤だ。個人的には70年代のホール&オーツの方が好きなのだが、彼らのキャリア
のピークはやはり80年代であり、「キッス・オン・マイ・リスト」「マンイーター」「アイ・
キャント・ゴー・フォー・ザット」といったヒット曲は今聴いても実に素晴らしい。懐かしい
のはもちろんだが、じっくり聴いてると新しい発見もあったりする。しかも、あの頃の
曲って今聴くと結構古臭い音に感じられたりするものだが、彼らの曲に関しては全くそれ
がない。当時の最先端であり、尚かつ時を経ても輝きを失わない文字通りのエバー
グリーンである。ポップス好きなら絶対“買い”だ。
残念ながら、90年代以降の彼らはあの頃が嘘のように鳴りをひそめ、輝きを失って
しまっている。だが、このベスト盤に収められた彼らは永遠だ。今年の春に久々の来日
公演も決まったし(会場がホールクラスだというのが嬉しい)、聴けば新作も出るらしい。
これを機にホール&オーツが再び80年代の輝きを取り戻すことを期待したい。才能は
枯れてなんかいないはずだ、と僕は信じる。あんな素晴らしい曲はまぐれでは作れや
しないのだから。
NOTE 2002.1.19
LIVING EYES/BEE GEES
多分聴いたことない人も多いだろう。これはビージーズが1981年に発表したアルバム
で、デビュー以来所属してきたRSOでの最後の作品であり、また6枚連続で更新中
だったミリオン・セラーをストップさせてしまったアルバムでもある(ライナーより)。つまり
彼らのキャリアの中ではきわめて地味な部類に入るアルバムなのだ。
しかし、チャート的には地味だったが内容は素晴らしい。彼らの代表作の一つに挙げて
もいいのではなかろうか。ディスコで当てた70年代終わりのパターンは敢えて切り捨て、
彼らの本質である美しく印象的なメロディとハーモニーを、腕利きミュージシャンたちに
よる無駄のない演奏に乗せて再構築した極上のポップ・ミュージックである。スローな曲
でもアップテンポの曲でも、その珠玉のメロディに酔いしれることが出来る。彼らとしても
自信作であっただろう。結果としてヒットしなかっただけで、良い物が売れるとは限らない
のがポップ・ミュージックの不思議な所でもあるのだ。このアルバムがコケてしまった
せいで、世間からはビージーズは終わったなどと陰口を叩かれ、彼ら自身も自信をなくし
たのか、80年代はしばらくアルバムも発表せず低迷期に入ってしまう。売れたかどうか
でしか、その作品の価値を計れない矮小な音楽ファンも多く存在する訳で、当時ビー
ジーズをけなした連中の何人がこのアルバムをきちんと聴いていたかは大いに疑問だ。
聴いていればあんな批判的な事が言える訳がない。そう言い切ってしまえるほど、この
アルバムの完成度は高い。
ミュージシャンも結局は人気商売、売れなければどうしようもないのだが、70年代終わり
にあれだけチャートを席巻したビージーズが、本作の不成績で一気に転落してしまうとは
誰が想像しただろう。正に栄枯盛衰、業界の残酷さをひしひしと感じてしまう。幸いビー
ジーズは一時期低迷はしていたが、80年代後半からチャートにカムバックし、今でも
安定した活動を続けている。本当に潰れないで良かった、という所だがそれもこれもこの
『リビング・アイズ』に始まっている訳だ。そういう意味では、彼らの中でも特異な一枚か。
あれから20年以上過ぎてしまった今、このアルバムを聴いて彼らの凄さを思い知ると
同時に、ずっと彼らのファンであった事をちょっぴり誇らしく思ったりしている。
(このアルバム、世間の評価とは関係なく、僕自身は発売当時から気に入ってよく聴いて
いたんですよ←ちょっと自慢)
NOTE 2002.1.9
FROM THE VAULTS/四人囃子
僕にとっては大ニュースである。2001年も押し詰まってからなんと、あの伝説のロック・
バンド、四人囃子の5枚組CDボックスが発売されたのである。全47曲、ライブ音源や
デモ音源で構成され、しかも驚くべきことに全て未発表音源! これを快挙と言わずして
何と言えばいいのか。70年代の日本ロック黎明期にシーンをリードした伝説のバンドの
全貌が今明らかになる! というのは少々大げさにしても、ファンにしてみれば涙が出る
くらい貴重なトラックのオンパレード、正にタイトルが示す通り“蔵出し”音源のてんこ盛り
なのである。
ファンでない人には興味ないだろうが(笑)一応各ディスクの説明をしておくと、Disc1と
Disc2はライブ音源集で、1は彼らがレコード会社と契約した1973年、2は1974年
及び1975年のライブである。この中には、伝説の(こればっかやな...苦笑)初ワン
マンコンサート“ミラージュ・オブ・四人囃子”での演奏やディープ・パープルの前座を
務めた武道館でのライブなどのありがたい音源が聴ける。Disc3はスタジオ・セッション
音源で、1976年のアルバム『ゴールデン・ピクニックス』と1978年の『包』録音時の
テイクが中心。スタジオ内での曲の仕上げ方の違いが分かって面白い。Disc4は再び
ライブ音源中心で、1977年から1979年及び1989年の再結成ライブでの演奏が
聴ける。1977年に四人囃子がアルバムとツアーの宣伝を兼ねてFM東京(当時)の
番組に出演してスタジオ・ライブを披露した時の音源も含まれているが、これ放送時に
友人のH氏がテープに録音していて、僕も借りて聴いていたのである。こういう形で再び
聴けるとは感激だ(ちなみにそのテープはもう20年近く借りっばなしだ)。そしてDisc5
だが、ある意味これが目玉かも。なんと1972年という四人囃子の初期のライブで、
マウンテンやプロコル・ハルムといったバンドのコピーをやっているのだ。これが実に
上手い。10代の演奏とは思えない。彼らがライブをする度にその知名度は上がって
いったというが、ここに収められた演奏を聴けば納得だ。昔も今も、こんな音を出せる
高校生いや日本人のバンドなどそうはいないだろう。いゃ〜、凄い、恐れ入りました。
ま、とにかく、日本が生んだ最高のロック・バンド(と断言する)四人囃子の素晴らしさを
改めて認識できる、鬼に金棒のボックス・セットなのである。5枚組で1万円(税込)、
初回完全限定生産という事で熱心なファン以外には手を出しにくいとは思うが、キャパ
が広いだけで自分たちでは何も出来ない昨今のバンドたちを喜んで聴いている連中
には、是非この泣く子も黙るボックスを拝聴して深く反省して貰いたいと切に願う次第
だ。音だけでなく、ブックレットでは四人囃子の神々しくも美しいステージ写真もたっぷり
と拝む事が出来るし。衣装だのステージングだの実はどうでも良いことに命をかけている
ような輩には、彼らの写真から伝わってくる凛々しさのようなものは永久に理解出来ない
だろうけどね。
多少の不満はあるけど(佐藤満在籍時のライブ音源が少ないとか、『一触即発』や
『Printed Jelly』のデモテイクも聴きたいとか、90年代に入って時々再結成しては
イベント等に出演してたりするけどその時の音源も収録して欲しかったとか)、大したこと
ではない。このボックスを聴いて21世紀の今、改めて彼らの偉大さにひれ伏すことに
しようではないか。で、今気づいたのだが、このボックスには通し番号(とおぼしきもの)
が付けられている。僕のは1891番だ。もしこれを読んでいる人で、ボックスを買った人
がいるなら、是非その番号を教えて下さい。これも秘かな楽しみだ(笑)
NOTE 2001.12.26
風精の棲む場所/柴田よしき
柴田よしきという人、結構筆が早いので今年の夏に出た本書も最新とはいえないの
だろうが、浅間寺竜之介なる探偵(というか売れない作家)が登場する長編ミステリー
である。メル友の女子高生から招待され、彼女が踊る伝統の舞いを見に現代離れした
山村を訪れた竜之介が殺人事件に遭遇する、というありがちな内容なのだが、いつも
通り魅力的な登場人物たちと会話のおかげでとても面白く読める。正直な所、ミステリー
としてはまあまあかなという気がしないでもないが、ストーリーやトリック以上に作者自身
の日本古来の伝統芸や自然といったものに対する敬虔な思いを随所に読みとることが
でき、結果としてこの作品を味わい深い物にしているのは間違いない。
特に感心したのはブナに関する記述だ。“ブナは命の樹木だ。ブナの森は命の宝庫で
あり、ブナの優しい姿は森の恵の豊かさを保証する”という文章に始まり、ブナはその根
に水を貯える性質を持っているので地質が良くなる。地質が良くなれば様々な植物が
育ち、ブナ自身も花や実をつけ、それらが小動物の糧となる。冬になると落葉するが
その葉は土に還りきのこ類が大量に生える。“一年を通して、ブナは命の源となり、森を
豊かに守り続ける、神が生き物たちにくれた奇跡の樹木なのである” 単にエコロジーと
わめくだけの輩からはこんな言葉は出てこないだろう。人類と自然が共存するには、
自然に対する畏怖の念を持ち、適当な距離と秩序を守ること、だと柴田よしきは訴える。
そんな思いを伝えたいがために、山奥の山村を舞台にした本書を書いたのではないか
とすら思えてしまう。確かに、メインテーマではないのだけど。
テクノロジーも結構だが、自然というものに対する敬意を人間は忘れかけている。
そのうち痛烈なしっぺ返しをくらうのでは、という事を我々は肝に命じて生きるべきだ
ろう。そんなことを考えてしまった。ミステリーとはいえ、謎解き以外にも考えされられる
事の多い小説である。柴田よしきも非常に懐の深い作家だ。それを再認識して、さらに
ファンになってしまった。
NOTE 2001.12.23
STAND UP/JETHRO TULL
さてさてこちらはジェスロ・タルの2nd、1969年発表というからかれこれ31年前だ。
当時のブリティッシュ・ロックシーンの様子も窺える興味深い内容であると同時に、
やはり名盤と呼ぶべきクォリティの高さもあり、若いロック・ファンに是非とも聴いてみる
事をお薦めする。
この頃、ロック界のトレンドはブルース・ロックであったと言っていいだろう。ジェスロ・
タルもデビュー当時はプルース・ロックのバンドとして認識されていたらしい。本作も
基本的にはブルース的な展開のロックという印象だが、間にトラッドっぽい曲なども組み
込まれ、これがいいアクセントになっていて飽きさせない。単なるブルースにとどまらない
幅広さを見せつけている。一風変わったロック・バンドとして人気を博すようになる数年
後の萌芽は、この2ndの時点で既に芽ばえていた、という訳だ。もちろん、大半を占める
ブルース調の曲も滅茶苦茶カッコいい、ツェッペリンあたりにも決して負けていない。
一曲目がカッコいいリフのブルース・ロック、2曲目がアコースティックで牧歌的な感じの
曲、そして3曲目がバッハの曲をモチーフにジャズ的アプローチも見せるインスト、と
冒頭の3曲で一通り手の内を見せて聴く者を引きつける構成もいい。いやとにかく、
名盤である。全ロック・ファン必聴だな、これは(笑)
NOTE 2001.12.22
FULL MOON
一部の熱心なファンの間では名盤として名高いフル・ムーンのオリジナル・ラインアップ
では唯一のアルバムである。このバンドはニール・ラーセンとバジー・フェイトンという
日本でも人気の高い二人によって結成され、この1stは1972年に発表されたもの
らしい。ライナーによると70年代半ばには既に廃盤となっており、その頃から激レア
だったようだ。その幻の名盤のCD化がついに2000年に実現したという訳である。
以前読んだ雑誌ではAORの原点みたいな扱いだったが、確かにハード・ロックや
プログレが隆盛を極めていた時代においては、非常にソフィスティケイトされた印象が
あっただろう。いきなりファンキーな曲で始まり2曲目にメロウなナンバーが出てきたり
するので、いわゆるロック・ファンからは軟弱として敬遠されたであろう事は想像がつく
(実際、セールス的には惨敗だったらしい)。しかし、ポップ・ミュージック(特にロック)が
最も創造的だったのは70年代であった、と固く信じている僕からすると、やはり単なる
AORという事で片づけてしまえるバンドではない。よく聴けばブルースやR&Bが基盤で
ある事が分かるし、ニール・ラーセンが全編で弾いているエレピの音がメロウな雰囲気を
醸し出しているだけで、中味はやっぱりロック・バンドだ。アプローチの仕方が違うだけで
ある。元祖AORなんて固定概念で聴くと、意外と渋く感じられるのでは。
ま、とにかく、いつもの結論だが(笑)フル・ムーンというバンドは多彩な音楽性をひと
まとめにして、独自のサウンドを確立しようとしていた訳で、それは見事に成功している。
ウェスト・コーストっぽい香りを漂わせながら後のフュージョンにも共通する感覚の曲も
あったりして、実に素晴らしいのだ。ほんと、70年代の人たちって凄かったんだな、と
毎度のことながら恐れ入ってしまう(笑)
余談だが、去年から今年にかけて電話会社のCMにフル・ムーンの曲が流れていた
(このアルバムには入ってない)。ちょっとビートルズっぽい曲だけど、あまりに評判が
良かったとかでCM曲を集めたコンピにも収録されたはずだ。興味のある方は探して
みては?
NOTE 2001.12.19
A FUNK ODYSSEY/JAMIROQUAI
言わずとしれた人気バンド、ジャミロクワイの新作だ。例によって日本でも快調に売れて
いるらしいので、既に聴いてる人も多いだろう。確かに良い。汗くささの希薄なファンク・
ミュージックとでも言おうか、一見お洒落で軽やかでダンサブルで、だけどよく聴いている
と表面上のカッコ良さだけではない芯の通ったものが感じられ、こいつら仲々あなどれ
ないバンドなのである。
彼らが70年代から80年代のブラック・ミュージックに強い影響を受けており、その
スタイルを踏襲した音楽をやる事で自分たちが影響を受けたブラック・ミュージックに
敬意を表しているのは明らかだ。だけど、彼らの音楽は単なるコピーや焼き直しでは
ないし、ブラックのみを追求している訳でもない。ジャミロクワイの音楽は現代のクラブ
シーンの空気を的確に表現していると思えるし、そういう意味では“今”を生きるバンド
なのである。ブラック・ミュージックの安直な焼き直しというのなら、僕に言わせれば80
年代のUKソウルの連中の方がよっぽどひどいと思う。本格派を自称するブラック・
ミュージック・フリークにはジャミロクワイなど毛嫌いされているのでは、なんて思うけど
そういう人たちにこそ、是非聴いて欲しいものだと思う。少なくとも、今アメリカで流行して
いるヒップホップ系R&Bより、ジャミロクワイの方がずっと面白い。
冒頭にも書いたが、R&Bやファンクに多大な影響を受けているけれど、ジャミロクワイ
には汗の臭いのようなものが感じられない。この辺りやはりイギリスのインコグニート
などにも共通するような気がする。どちらも日本で人気があるというのも何だか面白い。
NOTE 2001.12.6
CREST OF A KNAVE/JETHRO TULL
最近ハマってしまったジェスロ・タル、まずは比較的新しめのこのアルバムを買って
みた。本作は1987年発表、なんとその年新設されたグラミー賞のヘビー・メタル部門
で最優秀グループ賞を受賞してしまったという、いわくつき(笑)のアルバムなのである。
でも確かに当時の主流であった様式HR/HMの方法論も取り入れ、若手に対抗しつつ
も自分たちのオリジナリティで勝負しようという意気込みの感じられる好盤であり、
評論家筋から高い評価を受けたのも納得であろう。この年、グレイトフル・デッドも
いきなりベスト・セラーを出したりなんかして、70年代から頑張るベテランがまだまだ
シーンに通用することを証明したりしていた記憶があり、タルのグラミー受賞もその
ベテランの健在ぶりを示すものとして、メディアの話題になっていたと思う。ただ、タルの
このアルバムが売れた、という記憶は残念ながらないのだが...(笑)
しかし半端な様式系バンドには絶対マネ出来ないであろう、重厚で荘重で英国らしい
気品をたたえたドラマティックなロック・アルバムである。ハード・ロックともプログレとも
言える世界だが、これが実にカッコいい。80年代に隆盛を極めた様式HR/HMに
対するジェスロ・タルなりの回答であったのだろうか。前述したようにその時のトレンドに
目配りしながらも、決して売れ線狙いではないオリジナルなジェスロ・タルの音楽であり、
その名を汚すことなくメジャーなシーンに立ってみせたのは素晴らしい。70年代に全盛
を極めながらも80年代に入って失速していった多くのバンドたちも、ジェスロ・タルの
この姿勢を見習っていれば十分第一線で通用したろうに、なんて思ってしまう。ま、才能
の違いかもしれないが(笑)
いやしかし、あまり聴いていないけどジェスロ・タル、凄いバンドである。次はどれに
しようかと思うと、今から楽しみでならない。
NOTE 2001.11.11