最近のお気に入り
(バックナンバー16)
CD、小説、映画など流行に関係なく、また新旧を問わず
最近気に入ったものを紹介します。
=音楽関係
=書籍関係
=映像関係
少女達がいた街/柴田よしき
まぁしかし、多才な人である。この『少女達がいた街』はストーリーもさることながら、
構成が素晴らしい。1975年と1996年とをそれぞれ舞台にした章から成る2部構成
なのだが、1975年の第一章はパープルやクイーンといったロックに夢中の高校一年生
の少女、ノンノの日常や心情が描かれた、いわば青春小説みたいな感じ。栗本薫が得意
とする若者を主人公にした風俗小説のような趣がある。10代の少女の胸の内とかが
よく書けていると思うのだが、これが1996年を舞台とする第二章になると雰囲気が一変
する。ケガをして休職中の刑事が20年前に起きた放火殺人事件の謎を追うミステリー
仕立てになっているのだ。とても同じ小説とは思えないが、ラストに近づくにつれ、第一章
に描かれたちょっとしたエピソードが、実は重要な意味を持っていた事が分かってくる。
こうして文章にするとなんてことはないが、とにかく第一章と第二章がまるっきり性格の
異なる物語になっているので、ショック(?)もデカいという訳だ。少しづつ謎が解き明か
されていく過程も、より一層スリリングに感じられる。やや使い古されたネタでも、ちょっと
した工夫で読者に新鮮な衝撃を与える事が出来るのだ。しかも、単なる謎解きではないし。
やはり、柴田よしきという人は一筋縄ではいかない人だな。
この小説が成功しているのは、構成の妙ももちろんだが、70年代中期を背景に、少女たち
のライフスタイルや世相などが生き生きと描写されているからだろう。そして、帰っては
こないあの時代に対する思いがひしひしと伝わってくるからでもある。誰にでも平等に
青春はあったのだし、またどんな青春であれ誰にも否定することは出来ないのだ。決着
をつけるのは自分自身でしかない。たとえどんな結末になったとしても。
NOTE 2002.12.7
BRAINWASHED/GEORGE HARRISON
早いもので、ジョージ・ハリスンが亡くなってから一年が経とうとしている。その一周忌を
前に、ジョージが生前録音していたという音源がついに発売された。オリジナル・アルバム
としては15年振り、ジョージ名義のアルバムとしても10年振りとなる。まさかこんな形で
待ちこがれたジョージの新作を聴くことになろうとは...(涙)
しかも、この遺作の出来が素晴らしいんである。僕自身がジョージのファンであり、
彼自身がもうこの世の人ではないという感傷を差し引いても、ジョージの生涯で3本指に
入る傑作だ(と思うんだけど...) ライナーによると、このアルバムのレコーディングは
1999年頃から始められていたらしいのだが、想像するに、彼はこの時3年後には自分が
死んでしまうなんて、これっぽっちも考えていなかったのではないだろうか。そう思って
しまうほど、このアルバムでのジョージは活気に溢れ、生き生きとした力強い歌を聴かせて
くれている。収録曲も久々に粒揃い、どれも前向きな印象の曲ばかりで、沈んだ雰囲気は
微塵もなく、聴いてるだけでウキウキしてくるような、そんなポジティブな躍動感に満ちて
いる。少なくとも“遺作”という言葉から連想される悲痛なものは全くない。こんなに生き
生きとした曲を作り歌っていたジョージ、やっと新作を聴けた時には天に召されてしまってる
なんて...彼が信じた神は時として残酷な事をするものだ。
ま、そういった感傷を抜きにしても、素晴らしいアルバムであるので、せめて供養代わりに
多くの人に聴いて欲しいと思う。声も曲調も独特のスライドギターも、ほんとにジョージ
そのものだ。サウンド的にはややカントリーっぽい雰囲気もあり、これまたトラベリング・
ウィルベリーズっぽくて良い。あのジェフ・リンがプロデューサーとして名を連ねているが、
最後の録音という事でジョージのデモにあまり手を加えずに完成させた、という話で
ヤツが余計な事をしなかったのが、結果的には良かったという事だ(笑) とにかく、ジョージは
もうこの世にいないけど、こんな素晴らしいアルバムを残した訳だし、ジョージ・ハリスン
というミュージシャンが世界中の音楽ファンから忘れ去られてしまうなんて事は絶対に
ないだろう。いや、忘れてはいけない。人々の記憶から消え去った時が、その人の本当
の“死”なのだから。
NOTE 2002.11.27
FULL MOON LIVE
バジー・フェイトンとニール・ラーセンが中心となって、80年代初頭に活動していたバンド
のライブ音源が陽の目を見た。なんでも、フル・ムーン関連の音源を再発したがっていた
日本のレコード会社からの要請により、バジー・フェイトン自身が所有していたライブテープ
がCD化されることになったのだという。
この時期彼らは“ラーセン=フェイトン・バンド”と名乗って活動しており、アルバムも好評
で「今夜は気まぐれ」というヒットも生んでいる。本作は、かつて“フル・ムーン”としてAOR
の元祖と言われるアルバムを作った彼らが、正にそのAORブームの中で人気沸騰した
頃のライブなんである。収録曲は9曲、ボーカル入りが一曲だけなのは物足りないが、
余裕たっぷりながら白熱した演奏が素晴らしい。フュージョン的な音ではあるけれど、
サンバっぽいリズムが気分を高揚させる。中心となるフェイトンとラーセンのプレイも
素晴らしいが、リズム隊も頑張ってるし、バンドが一丸となって醸し出すグルーブが
たまりません。テクニシャン揃いだけど、火花散る演奏という訳ではなく、前述のように
あくまでリラックスした雰囲気が漂っているので、聴いてる方も肩が凝らないし(笑)
「サドゥン・サンバ」なんて好きだったなぁ、周りでコピーしてる連中いたなぁ、こういう
音楽が人気だったなんていい時代だったなぁ、なんて事を思いながらオジサンは聴き
入ってしまったのでした(爆)
こうなると、最近精力的に活動しているというバジー・フェイトンを是非見たい。来日して
くれないかな。
NOTE 2002.11.23
ザ・対決/清水義範
久々に清水義範である(笑) 毎度毎度凡人には思いもつかないアイデアで楽しませて
くれる人なのだが、今回はタイトルからも察せられる通り、色々な人や物を勝手に対決
させてみよう、という趣旨の短篇集なんである(そういえば昔、ダウンタウンの
『ごっつええ感じ』でもそんなコーナーがあったなぁ)。目次をチラッと見ただけでこの本が
読みたくてたまらなくなってしまうこと請け合いだ。「ロビンソン・クルーソーvsガリバー」
「茶vsコーヒー」「ラーメンvsカレーライス」「楊貴妃vsクレオパトラ」などなど、資料をもとに
冷静に比較対照してみせたり、架空のディベート風にしたり、小説に仕立て上げたり、
様々に趣向をこらしており飽きさせない。必ずしも勝負に決着がつくようにはなっていないので、
清水説を参考に自分であれこれ考えてみるのもまた一興。とにかく面白いです。暇つぶし
には最適だけど、清水義範の場合、単に暇つぶしにとどまらない奥深さがあるので、
やはり何度も言うけど凄い人なのである。
洋楽ファンとしては、ベタだけど「ビートルズvsローリング・ストーンズ」なんてのもやって
欲しかったが、これは次回のお楽しみということで(笑)
NOTE 2002.11.16
インディゴ地平線/スピッツ
という訳で、近頃スピッツにハマっている。今までにも、特定のアーティストをいいなと
思って集中的に聴くことはあったけど、色々な人とゲストブックなどでスピッツの話題で
盛り上がったりすると、余計に聴きたくなってあれこれ買いたくなってしまうのだ。しかも
スピッツの場合、新作と同時に旧作がリマスター盤で再発されたので、タイミングが
良いんだか悪いんだか...(笑)
で、この『インディゴ地平線』、僕が説明する必要は全くないと思うが、1996年発表、
ヒット曲「チェリー」「渚」を含むアルバムだ。その前年「ロビンソン」でブレイクし、
それ以降ヒット曲連発で彼らの人気が天井知らずの頃のアルバムだけあって、やはり
素晴らしい。スピッツの場合、なんといっても曲が良いのはいつもの事だが、このアルバム、
「チェリー」という天下無敵の名曲が収録されているにもかかわらず、この曲が突出して
いる印象は受けない。つまり「チェリー」以外の曲がこれまた粒揃いの佳曲ばかりで、
決して「チェリー」に負けていないのである。これは凄いことだ。「チェリー」はアルバムの
ラストを飾っているのだが、それを楽しみに聴くというのではなく、一曲一曲に酔いしれて
いるうちにラストがきてしまう、という感じ。ほんとに素晴らしいです。これ以上何も言うことは
ありません(笑)
現在のスピッツと比べると、アレンジが重厚というか派手というか、そんな印象もあり、
彼らが着実に変化してきている事がよく分かる。「チェリー」なんて、今だったらもっと
簡素なアレンジにするんだろうな、なんて想像しながら聴くのも楽しい。ま、とにかく、
スピッツ、いいです。
NOTE 2002.11.9
クロスファイア(全2巻)/宮部みゆき
矢田亜希子主演で映画化もされた作品なんである(映画は未見)。以前ここでも取り上げた
『燔祭』に登場した“パイロキネシス(念力放火能力者)”である青木淳子を主人公に据え、
特殊な能力をフルに使い、社会のくず達を処刑し続ける彼女と半信半疑ながらも放火
殺人犯を追うベテラン女性刑事を中心に物語は進み、そこに幼い頃パイロキネシスに
弟を殺された経験を持つ刑事、超能力を持つ母娘、ガーディアンなる秘密結社などが
絡んでスリリングに展開していく。結構荒唐無稽なんではあるが、作者の人柄か、決して
悪ふざけでもアイデア倒れでもなく、非常に良質なエンタインメントになっているのはさすが。
読み始めたら、寝るのも惜しくなってしまうこと請け合いである。
超能力者が登場する『燔祭』や『龍の眠り』のように、特殊な能力を持って生まれてしまった
“異端”の悲しみを描くのではなく、その能力を活用して法律で裁けない悪党を処刑して
いく行為は本当に正義と言えるのか、というテーマに重きが置かれているが、それを
ひたすら正義と信じて行動する主人公の姿が凛々しく小気味よい。そのせいか、悲しい
結末ではあるものの湿っぽい雰囲気はなく、すっきりと読める小説であろう。誰にでも
楽しめると思う。
それにしても、こんな青木淳子みたいな人が実際に存在したらなぁ、なんて思う事は
ないだろうか。不可解な判決で堂々と無罪になってるのがいるもんなぁ、山形マット事件
の被告たちとか...こういう連中に正義の鉄槌が下ったら実に気持ちいいと思いません?
ちょっと危ないかな?(笑)
NOTE 2002.11.7
三日月ロック/スピッツ
前作『ハヤブサ』から約2年振りの新作。やっぱりスピッツはいいなぁ、という内容に
なっている(笑)
最近では珍しい、生のバンドの音を聴かせてくれるバンドといっていいと思う。実際は
どうか知らないけど、ギミックなし、編集なし、どの曲も「せ〜の」で録りました、てな感じの
雰囲気に溢れている。テクニックを売り物にしたバンドではないけど実力者揃い、それが
スピッツだ。そんなバンドをバックに草野正宗のボーカルが冴え渡っている。楽器隊は
ボーカルを支え、盛り立て、時には自己主張してみせる。ボーカルvs楽器の理想的な
関係がここにはある。一見地味だけど、誰か一人が欠けてもスピッツは成り立たなくなる
であろう、そんな緊張感と信頼感が感じられる素晴らしいバンドだ。バンドマンを目指す
青少年たちは是非スピッツをお手本にして欲しい(笑)
草野正宗の曲も相変わらず素晴らしい。「ババロア」「遙か」なんて、ちょっと切ない
メロディーをあの声で歌われたら、もうたまらない。今回は「チェリー」みたいな超弩級の
名曲はないけど、どの曲も高水準だし、CDを聴き終えた後もしばらくメロディーの断片が
頭の中で鳴っている。こんな曲を書ける人って、今の日本にはそういないと思う。
唯一無比のソングライターがいて、実力派のプレイヤーが揃っていて、ほんとスピッツは
鬼に金棒だ。前にも言ったと思うけど、もっとロック・バンドとしての正当な評価を受けても
いいんじゃないだろうか。お願いしますよ(笑)
NOTE 2002.10.21
遙都 混沌出現/柴田よしき
ついに文庫化された、柴田よしきの伝奇ファンタジー・シリーズの第三弾。古都京都を
舞台に妖怪との戦いを描いた『炎都』、生命を破滅に追い込む“黒き神々”が登場して
益々スケールがデカくなった『禍都』に続く本作は、前作でサイパンのテニヤン島を空に
飛ばして京都の上空に移動させてしまう、という実に荒唐無稽な終わらせ方をしたのに
飽きたらず(笑)、ついにはゲッコーの神話にあるように、太平洋に失われた大陸が出現し、
その地殻変動で本州がまっぷたつに割れてしまう、という所まで行ってしまった。正に
好き放題の展開である(笑) ま、どうせ空想の世界に遊ぶのなら、ここまでやってくれた
方が痛快というもの。細かい理屈は抜きにして楽しむのが一番。この手の小説は嘘臭くて
どうも、という人は読まなければいいだけの事だ。
ただ気になるのは、この種のファンタジーものって、巻を重ねるに従い、手に汗握る
ストーリー展開が影をひそめ、次第に観念的になっていく傾向があり、この『遙都』にも
少なからずそういうのが感じられること。僕が最初に熱中した伝奇ファンタジーは栗本薫
の『魔界水滸伝』なのだが、これは10巻を過ぎるあたりからすっかり観念的になり、
読むのがかったるくなってしまった、という経験がある。要するに理屈っぽくなってくると、
この手の小説はつまらないのだ。柴田よしきという人は懸命な人のようだから、そういった
落とし穴にはまることなく、このシリーズをひたすら荒唐無稽に続けていってくれるだろう、
とは思うのだが。期待してます(笑)
NOTE 2002.10.15
THROUGH THE LOOKING GLASS/TOTO
今年12月に来日公演が決定したTOTOの新作はカバー・アルバムとなった。これがまた
久々に素晴らしい内容で、来日公演が楽しみになってしまうくらいだ。
今年でバンド結成25周年という大ベテランであるTOTOがカバー集を出すということで、
一体どんな曲を取り上げるのか、大変興味があったが、蓋を開けてみれば意外な曲もあり
予想通りの曲もありで、非常に幅広い選曲がなされている。ビートルズ、クリーム、
ボブ・ディランなどクラシックな大物から、スティービー・ワンダー、アル・グリーンといった
ブラック系、果てはボブ・マーリーやエルビス・コステロ、なんとハービー・ハンコックなんて
とこも網羅していてビックリだ。超有名曲もあるが、割とシブめの選曲が多いというのも
センス(こだわり)を感じさせる。
演奏のみならず、アレンジなどにも昔からこだわってきたバンドなだけに、有名曲を独自
の感覚で料理しているのも聴き物だ。特にループと生ドラムを絡ませたリズム・アレンジが
仲々面白く、これが現在のTOTOの特徴になっているのかもしれない。ジェフ・ポーカロ
亡き後、TOTOに興味を失っていた僕だが、それはドラマー以上の存在であったジェフが
いなくなったことによりバンドの“核”が失われ、何をやりたいんだかさっぱり分からない
バンドになってしまった(ように思えた)為なのだが、このカバー・アルバムを聴く限りでは、
一貫したビジョンと方向性がはっきりと窺える。ここ数年のアルバムに見られた中途半端
な印象はない。良い曲がない(作れない)というのが致命的だったが、カバー集を作ること
で埋め合わせる事はできたし、それでアイデンティティを取り戻す事が出来たのなら、
この試みは大成功だ。実際、知らない曲なんかオリジナルみたいに聞こえる訳だし、
カバーだと聞かされていなければ、TOTO復活バンザイ!と狂喜乱舞したことだろう。
ネタこそカバーだけど、アレンジといいサウンドといい、これは疑うことなきTOTOの新作
である。古くからのファンも新しいファンも納得の一枚ではなかろうか。少なくとも『タンブ』
以降のオリジナル・アルバムより遙かに出来は良い。
これを機に、新たなるTOTOの姿を来日公演でも見せて欲しいものだ。裏ジャケの写真を
見る限り、スティーブ・ルカサーは随分太ってしまったみたいだけどね(笑)
NOTE 2002.10.10
LIVE AT THE BAKED POTATO HOLLYWOOD 6−4−99
/BUZZ FEITEN & THE WHIRLIES
ここ数年、精力的に活動しているバジー・フェイトンだが、これは彼のバンド、ワーリーズ
のライブ盤である。タイトル通り、LAのベイクド・ポテトという有名なライブハウスで1999年
の6月4日に行った演奏が収められている。ワーリーズとしてのアルバムが発売される
丁度一年前、バンドも結成したばかりのようで、まだ音が固まっていない感じだし、後に
1stに収録されることになる曲たちもアレンジが未完成で、ほんと荒削りな感じのする
ライブ盤だ。オーバーダビングも全くされてないみたいで、ミストーンもそのまま残ってたり
する。そんな中で弾きまくるバジー・フェイトンが素晴らしい。CD2枚に渡って、
彼のプレイが十二分に堪能出来る。ほとんど彼のソロライブみたい(笑)
ま、しかし、こんな荒削りなライブを経て、あのデビュー・アルバムに至ったかと思うと、
興味深いものがある。ここで聴けるのは、いわば原石のようなものだ。ライブを通じて
バンドを鍛え上げていったフェイトンのやり方は正解だったのであろう。こういうライブ盤
を出すフェイトンの意図はよく分からないが、荒削りとはいえシンプルでオーソドックスな
ロックが楽しめる好盤である。
それにしても、最近バジー・フェイトンはフル・ムーンを再結成したりして忙しいようだが、
このワーリーズはどうなったのだろう。1stから2年、そろそろ2ndが出てもいいはずだが。
もしかして、もう解散させてしまったのだろうか? このライブ盤は、そういう意味か?
ちょっと心配だな。
NOTE 2002.10.7