最近のお気に入り
(バックナンバー20)
CD、小説、映画など流行に関係なく、また新旧を問わず
最近気に入ったものを紹介します。
=音楽関係
=書籍関係
=映像関係
裁判官が日本を滅ぼす/門田隆将
僕のことを多少でも知っている人ならお分かりだろうが、僕は反体制と言えば聞こえは
いいが、要するにへそ曲がり、権威というヤツが大嫌いである。特に医者、警察、国会
議員そして裁判官という職業は大嫌いな権威の象徴ともいうべきであり、僕にとっては
唾棄すべき存在でしかない。であるから、本書を読んで呆れるという事はあっても、驚く
なんて事はない。権威の象徴に他ならない裁判官のレベルなど、こんな程度だと想像は
ついていたからだ。
タイトルからもだいたい内容はお分かり頂けると思う。最近目につくヘンな裁判、おかしな
判決を取り上げ、徹底的に検証を試みたノンフィクションだ。取り上げられている裁判は、
殺人・医療ミス・詐欺・性犯罪・名誉毀損・損害賠償・少年犯罪、と多岐に渡る。一般的
にはあまり知られていないのもあるけれど、山形の中学生マット圧死事件とか暴行殺人犯
の小野悦男の冤罪を認めて無罪放免にした裁判のように、新聞等でも取り上げられて
問題になったものもある。どの事例を読んでいても呆れるというか情けなくなるほどの
滅茶苦茶な裁判ばかり、裁判官がこれでは一体日本はどうなってしまうのか、と嘆息
してしまうこと請け合い(笑) 裁判官なんて難関の司法試験を突破したエリートなのに
何故? と思う人もいるだろうけど、そのエリート意識が全ての元凶なのだ。本書でも
度々考察されているが、世間と隔離された世界に生きる彼らは、常識知らずで世間知らず、
電車にも乗れないのもいるらしい。ほとんど芸能人と同レベルだ。そういう人間に社会
正義の何たるかが分かる訳はない。だいたい、裁判官になろうという動機すら間違っていて、
周囲から「君は頭がいいから裁判官になりなさい、その方がお金も貰えるし、世間から
尊敬される」なんて事を小さい頃から言われていた人間が裁判官を志すのである。正義
もへったくれもあったもんじゃない。厳しい競争を勝ち抜いていけるのは一部のペーパー
秀才であり、人間を理解できる人間らしい人は落ちこぼれていくのが、今の日本なのだ。
世も末だな(苦笑)
本書は、滅茶苦茶な裁判の被害に遭った側からの視点で書かれているので、偏向して
いるのではなかろうか、というきらいはなきにしもあらずだが、当の裁判官たちに取材を
申し入れても誰一人として応じようとしないのだから、これは仕方なかろう。反論するなら
是非公の場に姿を現して欲しいもの。僕も、裁判官側からの反論には興味ある。ま、それ
にしてもひどい裁判官が多いのには困ったものだ。本書を読んで、少しでも権威に弱い
人々が目を覚ましてくれれば、上梓された甲斐があるというものだろう。
NOTE 2003.10.17
A SALTY DOG...PLUS/PROCOL HARUM
こちらはプロコル・ハルムの1969年のアルバム。3作目にあたるそうだ。本編10曲に
シングルB面曲や未発表テイクなど6曲が追加されているので、タイトルが“PLUS”と
なっている訳ね(笑)
で、初めて聴いた訳けど、実に素晴らしいアルバムである。ファンの間で最高傑作と
呼ばれているのも納得。表現する言葉にちと困ってしまう。曲・アレンジ・演奏、どれを
とっても素晴らしいのだ。こういう時は下手な事は言わない方がいいな(笑)全編を通して
いかにも英国ってな香りが漂っているのもいい。ま、それ風の曲もあるけど、プロコル・
ハルムは決して「青い影」のみで語られるバンドではない。デビュー曲が超名曲だった
訳だけど、3作目にして既にその呪縛から解き放たれている。並のバンドには不可能
だろう。プロコル・ハルムって、やっぱり凄い(笑)
とにかく一度聴いてみる事を強くお薦めする。シンプルなピアノに荘厳なストリングスが
素晴らしいタイトル曲をはじめ、佳曲揃いである。トラッド風の曲もとことんポップな曲も
ブルース風もあり、でとてもバラエティに富んでいるし、「青い影」チックなオルガンが響き
渡るお約束の曲もある。どの曲も格調高い雰囲気で、ほんと素晴らしい。また一枚、
愛聴盤が増えた。
NOTE 2003.10.1
IN THE PURSUIT OF LEISURE/SUGAR RAY
これまた意外な収穫である。このシュガー・レイというバンド、名前は聞いた事あったけど、
ヒップホップ系のグループかと思ってた。が、実は5人組のロックバンドなんである。メンバー
にはお決まりのDJもいるが、ドラムもベースもいるちゃんとしたバンドなのだ(笑)ま、知ら
なかったのは僕だけで、彼らは本国アメリカでも、ここ日本でもかなり人気あるらしい。
本作は1995年にデビューしたシュガー・レイの5作目にあたるそうだ。『レジャーでGO!』
という邦題が苦笑を誘うが、内容はなかなかのもんである。CD帯にはミクスチャー系
みたいな事が書いてあるが、要するに何でもありのゴッタ煮バンドだ。これが実に楽しくて
良いのである。カントリー風味もラテンのノリもトロピカルな雰囲気もヒップホップな味付け
もあるけど、本人達は何も意識せず好きなようにやってる、という感じが凄くいい。ルーツ
を掘り下げたり頑なに伝統的なスタイルを守ったり、といった求道者然とした所はまるで
ない。「ミスター・バーテンダー」という曲で、なんとスイートの「愛は命」をサンプリングして
ラップ風ボーカルを聴かせたりしているが、またこれがハマっててカッコいいんですよ(笑)
ジョー・ジャクソンの「イズ・シー・リアリー・ゴーイング・アウト・ウィズ・ヒム?」のカバーも
聴けるが、こんなに明るい曲だとは知らなかった。とにかく全編明るく楽しく、これもひとつ
のアメリカン・ロックのスタイルなのである。悪ふざけでもシニカルでもない、底抜けに
楽しいロック・バンド、それがシュガー・レイなのだ。やってる方が何も考えていない(と
思われる)んだから、聴く方も脳天気に楽しみましょう。アタマでっかちな近頃のロックに
辟易しているそこのアナタ、絶対お薦めですよ(笑)
NOTE 2003.9.22
THE WELL’S ON FIRE/PROCOL HARUM
60年代半ばから約10年間活動を続け、一旦解散したプロコル・ハルムだが、1991年
に元メンバーの死を機にかつての主要メンバーが集まって再結成アルバムを出している
そうだ。で、この『ウェルズ・オン・ファイア』は、その再結成アルバムから12年振りの
新作。中心はやはりボーカル&ピアノのゲイリー・ブルッカーにオルガンのマシュー・
フィッシャー、そして詩人のキース・リードの3人。ジェフ・ホワイトホーン、マット・ペッグと
いったシブい顔ぶれが脇を固めている。
以前紹介した『Shine On Brightly』は1968年の作品であり、当然の事ながらこの
新作は60年代とは違った音になっているが、20年以上にも渡って活動を続けている
バンドの大半がそうであるように、自分たちのルーツを踏まえつつ現代にも通じる音作り
を試みた傑作と言っていい。現代を意識しながらも決して自分たちの過去を否定するよう
な作品になっていないあたり、ベテランバンドとしての意地とプライドを感じてしまうのだ。
英国らしい気品が全編に漂っているのも素晴らしいと思う。ロック史的には過去のバンド
なのかもしれないけど、もう少し注目されてもいいのではないだろうか。過去にすがって
いるバンドではない訳だし。今年の秋に来日して、あの四人囃子とジョイントライブを行う
そうだが、これを機にプロコル・ハルムが再評価される事を望みたい。。
内容にほとんど触れてないが(笑)、ゲイリー・ブルッカーのソロアルバムにも通じる
雰囲気、と某誌にも書いてあったように、ピアノを基調とした曲が目立つ。エルトン・ジョン
風あり、ブルース風あり、ギターを前面に出したハードな曲あり、と非常にバラエティに
富んだ内容だが、アレンジに一本芯の通った物が感じられ、統一感に溢れたアルバムと
なっている。「青い影」の頃を彷彿とさせるオルガンをフィーチャーしたインストなどもあり、
古くからのファンは涙してしまうのではないだろうか。どの曲もとても良く出来ており、
飽きさせないのはさすが。気品溢れるサウンド・プロダクションと共に是非堪能して頂き
たい。バーニー・トーピンあたりとも通じるキース・リードの詩世界を歌詞カード片手に
楽しむのも一興かと存じます。
あと余談だが、「シャドウ・ボックスド」という曲に、なんとロジャー・テイラーがコーラスで
参加しているので、クイーン・ファンも見逃せない、と言いたい所だが、実際には言われ
なければ分からない(爆) でもこの曲、このアルバムの中で一番のお気に入りでもある。
NOTE 2003.8.25
LIVE AT WEMBLEY STADIUM/QUEEN
クイーンにとって最後のツアーとなった1986年のマジック・ツアーから、7月12日の
ウェンブリー・スタジアムでのステージをMCも含め完全収録したライブDVDである。
かつてはビデオでも発売されていたが、DVD化にあたって未収録映像を追加してコンプ
リートとし(CDではフレディの死後2枚組としてコンプリート盤が出ている)、さらにシュー
ティングされなかった前日7月11日のライブやリハーサル映像、ブライアン&ロジャー
への最新インタビュー映像等を収めたDVDとセットで2枚組、という涙が出るようなサー
ビス振り。ファンを自称するなら借金してでも買うべきでしょう(笑)
いやぁ、しかし素晴らしい。やっぱりクイーンは凄い。もう、そんな言葉しか出てこない
くらい素晴らしい。この当時、既に彼らはイギリスを代表する国民的ロックバンドとして
の地位を揺るぎない物にしており、そこからくる自信とプライドに満ち溢れた堂々たる
パフォーマンスは、そこいらのバンドが束になっても太刀打ちできないだろう。その演奏
の中味といいコンサートの規模といい、間違いなくクイーンの歴史上ベスト3に数えら
れるパフォーマンスであると断言する。この時はもうエイズ・キャリアである事を自覚して
いたというフレディが圧倒的に素晴らしいけど、ブライアンのプレイも最高の部類だし、
ロジャーもジョンも実に素晴らしい。僕は残念ながらDVDプレーヤーを持っていないので、
ノートパソコンで見ているのだが、その小さな画面からもはみ出さんばかりの迫力と熱気
を感じ取る事が出来る。でも、やっぱ物足りないな、DVDプレーヤー買おうっと(爆)
80年代以降スタジアム級のライブが当たり前となり、派手な照明や巨大なスクリーン等
がコンサートには不可欠な物となった結果、パフォーマンスの質よりも演出などが重要視
されてくるようになったのは、実に嘆かわしい事である。また自らのパフォーマンスで観客
を引き込むのではなく、客と馴れ合いになった甘ったるいライブを涼しい顔して行って
いる情けないバンドも多い。そういった風潮とは次元の違うライブを展開していたバンド
の一つがクイーンであった。確かに巨大化するロック・コンサートの要因の一つに、彼ら
のようなビッグ・ネームの存在があったのは事実だが、何万人という観客を前にしても、
自らのバフォーマンスで観客を圧倒してみせたクイーンこそ、ロック・バンドの鑑と言う
べき存在なのだ。暴言を承知で言うなら、クイーン亡き後これだけのライブを見せる事
の出来るバンドはイギリスには存在しないのではないか。これはファンの欲目ではなく、
誰しもが認めざるを得ない事実であろう。信じられない、という方は是非このDVDを見て
欲しい。有無を言わさず圧倒されてしまうのは間違いないだろう。そういう意味では、
ファン以外の人も借金してでも買うべきだ(爆)¥5,800−(税込)です。
改めてクイーンの凄さが実感できる映像作品だ。この日、ウェンブリーにいた人はほんと
幸せ者である。あ、蛇足ながら、前日7月11日のライブ(最初から撮影は12日と決まって
おり、11日は予行演習でカメラを回しただけだったらしい)が見れる事は前述したが、
明らかにこの日のパフォーマンスは本編(つまり12日ね)より落ちる。雨が降っていたの
も影響しているのかもしれないけど、撮影本番の日に最高のパフォーマンスをしてみせる
あたり、やはり彼らも現金というか何というか(笑)そういう意味でも1986年7月12日に
ウェンブリーに居合わせた人は、神から祝福された幸せ者なのだった(爆)
最後に一言、God Save The Queen!!
NOTE 2003.8.17
予知夢/東野圭吾
『探偵ガリレオ』シリーズの第二弾である。様々な刑事事件に付随して発生する超常現象
や怪奇現象の類を、某大学の物理学科助教授が科学的に解き明かす、という内容だ。
本作も、予知やらポルターガイストやらをネタに、論理的で緻密な東野圭吾ならではの
世界を堪能できる短編が5つ収められている。
文庫版の解説にもあるけど、心霊現象などを科学的に解明する、という小説は成立
させるのが非常に難しい。全てを論理的に証明する事が信条のミステリーと、超現実的
な方向に話が流れていくオカルトは、水と油のような関係だからだ(←この辺、解説から
の受け売りです)。敢えてその難問に挑戦する所が東野圭吾らしいのだが、結果として
オカルトみたいだけど立派なミステリー、けれどミステリアスな部分はちゃんと生きている、
なんて奇跡みたいな小説をモノにしてしまったのは、さすがという他はない。ミステリーと
オカルト、どちらのファンも満足の出来映えだろう。毎度の事ながら、ストーリー展開や
キャラクター設定も実に巧みで飽きさせないし。とにかく面白いのだ。いつも同じ事言ってる
けど(笑)、絶対損はさせませんので、未読の方は是非一度読んでみて下さい。って、
ほんと最後はいつもこのパターンだな(苦笑)少しは東野圭吾を見習って、マンネリ打破
を目指さなければ(爆)
NOTE 2003.8.16
JEFF/JEFF BECK
ジェフ・ベックの、『You Had It Coming』以来約3年振りの新作が出た。ベックって
相変わらず凄い、と唸らされる内容だ。なんでも現在59才らしいが、昔とちっとも変わら
ぬ探求心というか新しい物を作りだそうとする貪欲さには、ほんと感心する。ジャケ写など
を見る限り、外見も昔とほとんど変わらないし。一体、この若々しさの秘訣はなんだろう?(笑)
10年振りに復活した1999年の『Who Else!』以降、彼が追求し続けてきたスタイル
は打ち込みやサンプリングを主体にしたバックトラックに自らのギターを絡ませる、言う
なればデジタル・ロック風の感触の音楽だ。この新作もそのトーンで貫かれている。無機質
だけども妙に生々しいサウンドにベックのギターは実に相性が良く、奔放に弾きまくって
いるという感じ。バックの音が違うだけで、本質的には昔から彼のやってる事は変わらない
のかもしれないけど(笑) アポロ440やアンディ・ライトといった異業種とも思える若手
たちと組んでの現在形ジェフ・ベックは実にカッコいい。僕が昔からベックを好きなのは、
そのギター(音色・フレーズすべて)を聴いていると興奮してくるからなのだが、この新作
でも彼は僕を十分に煽ってくれる。昔とちっとも変わらないような、でも確実に進化して
いるジェフ・ベック、やっぱり凄い人だ。
『Blow By Blow』や『Wired』を家宝にしている古くからのファンも、この『Jeff』には
十分に納得出来るだろう。異なる2パートを重ねた構成が絶妙の「Seasons」、突如出て
くるビーチ・ボーイズ風のコーラスが妙にハマってる「Hot Rod Honeymoon」、クレ
ジットから察するにベック自身のボーカルが聴ける「Pay Me No Mind」あたりが
お薦めだけど、どの曲でもベックの炸裂したギターは圧倒的な存在感を見せつける。
何度も言うけど、ほんと凄い人だ。若手からのリスペクトは、単にそのキャリアだけに
向けられている訳ではない。
NOTE 2003.8.9
VALENSIA’S QUEEN TRIBUTE
オランダ出身の“貴公子”ヴァレンシアによる、クイーンのトリビュートアルバムである。
彼がクイーンに心酔している事はファンの間では有名らしく、初期のアルバムなどは
クイーンの1stの雰囲気を見事に再現しているらしい。ま、そういう人であるので(笑)、
選曲にもニヤリとさせられるのだが、内容も仲々のもんである。何よりも、独自の解釈で
カバーしているのがいい。しかも奇を衒っている訳ではない。「シアー・ハート・アタック」
「アイム・イン・ラブ・ウィズ・マイ・カー」「キラー・クイーン」等が、オリジナルに忠実であり
ながらしっかりとヴァレンシア色の出た楽曲になっている。クイーンの曲ではないのだが、
“モット・ザ・フープル繋がり”という事で取り上げられたと思われる「すべての若き野郎ども」
が、なんとなく「心の絆」みたいな感じに仕上がっているのも面白い。また、ほとんど完コピ
の「ボヘミアン・ラプソディ」みたいに徹底的にやってる曲も仲々に凄い。ここまでやられると、
ほんと感心するのみだ。クイーン・カバーで面白い物はあまりないのだが、このアルバム
はお薦め出来る。よくよく聴いてると、このヴァレンシアという人、シンガーとしてもギタリスト
としても才能豊かなミュージシャンのようだし、要チェックかもしれない。実に意外な収穫
でした(笑)
NOTE 2003.7.26
MAGIC THE VERY BEST OF OLIVIA NEWTON−JOHN
今年の春来日し、25年振りというコンサートを行ったオリビア・ニュートン・ジョンなんで
あるが、テレビでその模様を見て、55歳(推定)とは思えない美貌と歌声に年甲斐もなく
ノックアウトされ(笑)早速ベスト盤を買った次第である。来日記念盤として『オリビア〜
ベスト・オブ・オリビア・ニュートン・ジョン』という日本編集のベスト盤が出ているが、こっち
には「レット・ミー・ビー・ゼア」「ひとりぼっちの囁き」「たそがれの恋」等が収録されて
いないので、シングル曲をほぼ網羅しているアメリカ盤にしたという訳ね(笑)
やっぱりいいなぁ(笑)僕は特別にオリビアのファンだった訳ではなく(でも、レコード屋で
ジャケットをポーッと眺めたりはしていた...爆)、ヒット曲を聴いて楽しんでいただけ
だったのだが、懐かしいしとにかく良い曲が多い。「レット・ミー・ビー・ゼア」に始まり
「運命のいたずら」までの20曲(ほんとは21曲目に「グリース・メガミックス」という、
はっきり言って余計なボーナス曲が入っているのだが...)が発売順に並んでいて、
彼女の変遷振りをたどる事が出来るのもいい。やはり、色々な意味で『グリース』は転機
だったのだろう。これ以降、曲調から発声まで変化しているのが分かる。僕個人としても、
『グリース』以後のオリビアの方が好きだ。「マジック」なんて、今聴いてもゾクゾクくる
名曲だと思う。
それにしても、オリビアもさることながら、ずっとプロデューサーを務めていたジョン・ファー
ラーという人も地味ながらすごいと思う。なにせ「そよ風の誘惑」「たそがれの恋」「愛の
デュエット」「マジック」などのヒット曲は、彼が書いていたのだ。成功の影に男あり。彼が
書き下ろした数々の名曲のおかげで、オリビアはただの美人歌手で終わることなく“歴史
に残る歌姫”となった。全米bPが5曲というのは輝かしい記録である。優秀なブレーンを
見つけること、これは今も昔も成功するための鉄則なのだ。女性の皆さん、パートナー
選びはくれぐれも慎重にね(笑)
NOTE 2003.7.22
美濃牛/殊能将之
近頃じゃ文庫本も厚くなって、1000円以上するのも珍しくなくなった。ここに紹介させて
頂く『美濃牛』も厚い。3pはあるだろうか。旺文社の国語辞典と対して変わらない。値段
は1038円(税別)である。
なんてことはどうでもいいのだが、この『美濃牛(ちなみに“みのぎゅう”と読みます)』は、
そんな厚さを微塵も感じさせない面白さなんである。作者の殊能将之という人、以前紹介
した『ハサミ男』でデビューした人で、『美濃牛』は2作目にあたるそうだ。ちょっと風変わり
なミステリーといった趣だった『ハサミ男』とは違い、本作はその厚さからも想像出来る
ように、かなり本格志向の推理小説である。
舞台は岐阜県の暮枝という山村。ここの洞窟に癌をも治してしまう“奇跡の泉”があると
聞いて、東京から取材にやってきたフリーライターが連続殺人事件に遭遇する。で、
ひょんな事から彼自身も事件の秘密を知っていると誤解されて殺されそうになったりしつつ、
最後にはやはり東京からやってきた探偵が見事に事件を解決する、と書くとただの推理
小説みたいだけど、とにかく面白いのだ。単に冗長なだけの新本格とは、全く比較になら
ない。牛鬼伝説が伝わる山村、地方の旧家、謎に包まれた洞窟、村に伝わるわらべ歌に
見立てて起こる殺人事件...どこか横溝正史の作品を連想させるが、それもそのはず、
殊能氏自身が横溝のファンらしい。だけど、横溝の影響下にはあるけれど単なるコピーで
はない。登場人物のキャラ設定も秀逸だし、構成も巧みで飽きさせない、それになんと
いっても論理(推理)に破綻がなく、ミステリーとしても読み物としても高い水準にあるのは
間違いないだろう。巧妙に張りめぐらされた伏線も心憎い。この殊能将之という人、かなり
の才人である。そのオリジナリティは敬愛する横溝正史にも決して負けてない。
巻末に記載されている参考文献の数が膨大で、きちんとした知識とデータに基づいて
書かれた事がよく分かる。行き当たりばったり&自己満足のミステリー作家が多い昨今、
この殊能将之のように、ちゃんとした面白いミステリーを書く人はもっと評価されてもいい
のではなかろうか。ややカルトな位置にいるようなので、勿体ない気がする。皆さんも書店
や図書館で見かけたら、是非手に取ってみて下さい。お願い(笑)
NOTE 2003.7.18