最近のお気に入り
(バックナンバー26)

CD、小説、映画など流行に関係なく、また新旧を問わず
最近気に入ったものを紹介します。

MUSIC=音楽関係 BOOKS=書籍関係 MOVIE=映像関係



 MUSICLET’S DANCE/DAVID BOWIE
     また旧譜(笑) ご存知デビッド・ボウイが1983年に放った大ヒット・アルバムである。
     3曲のシングル・ヒットを生み、タイトル曲は全米No.1となった。自ら創造したキャラクターを
     演じながら混沌とした70年代を生き抜いてきたボウイが、そういったコンセプト無しで、
     作品の魅力だけで勝負したアルバムであり、名実共に彼の代表作のひとつであり重要作
     である。実際の所、20年以上を過ぎて聴き返してみても、その素晴らしさは色褪せる事
     はない。タイトル曲や「モダン・ラブ」の圧倒的なカッコ良さは、初めて聴いた時の衝撃その
     ままだし、「チャイナ・ガール」や「シェイク・イット」ではソングライターとしての類い希な
     力量を見せつけている。バックの音がやや時代を感じさせるものの、ボウイの説得力ある
     ボーカルのせいもあり、特に気にならない。70年代からの熱心なファンからは、やたらと
     分かりやすくなった本作は不評だったらしいが、大ヒットして新たなファンを掴んだ事で、
     デビッド・ボウイは80年代も第一線で生き抜いていける事を証明したのである。時代を
     読むのが上手な人だったが、その嗅覚の確かさはここでも十二分に発揮されている。
     印象的なビデオ・クリップも人気だったが、元々ビジュアル重視の人でもあっただけに、
     お手の物だったろう。ここいらが、80年代に入って失速した大物たちとの決定的な違い
     だったのだね。
     とまぁ、うだうだ言ってるけど、理屈抜きで楽しめる傑作である。80’sブームとは関係なし
     に聴いてみる事をお薦めします。

NOTE 2005.9.11



 MUSICTHE INVISIBLE INVASION/THE CORAL
     ここんとこ、旧作ばかり聴いていたが、今回は若いバンド(笑)の最新作である。例によって、
     このコーラルに関する知識は全くなく、偶然聴いた「イン・ザ・モーニング」という曲が妙に
     気になって、アルバムを買ってみたという訳。で、聴いてみた印象はというと、ちょっとひねた
     バンドって感じ。シングルカットされた「イン・ザ・モーニング」はポップな曲だけど、それ
     以外に色々なタイプの曲をやっている。初期のビートルズみたいな雰囲気と思わせつつ、
     サイケ風だったりガレージロック風だったりハードロック風だったり、と曲によってかなり
     表情が変わるのだが、統一感があるのですんなりと聴ける。仲々面白いです。ただ、ライ
     ナーにも書いてあったけど、どこかポップに落ち着くのを拒否してるような雰囲気があって、
     誰にでもウケるバンド、という感じではない。ねじれたポップセンス、という点ではXTCあたり
     にも通じるものがあるが、あっちよりは聴きやすいと思う。ま、不思議な印象のバンドで
     ある。何度も聴いてみたくなるが、気づいた時にはハマってるかも(笑)

NOTE 2005.9.8



 MUSICNIGHTCAP THE UNRELEASED MASTERS 1973−1991
   /JETHRO TULL
     これはジェスロ・タルの未発表音源集である(2枚組)。といっても、1993年に出ていた
     ものであるが(笑)
     ファンの間ではよく知られている話だが、タルは1972年の『ジェラルドの汚れなき世界』
     の大ヒットの後、フランスはパリ郊外のエルヴィーユ城で次作のレコーディングを始めた
     ものの、諸々の理由で断念し、録音済みのテープは全て破棄して、ロンドンに戻った。
     そして一からレコーディングし直して完成したのが、あの『パッション・プレイ』な訳だが、
     この時お蔵入りになったエルヴィーユ城でのレコーディング音源が「シャトー・ディサスター・
     テープス」として、1993年タル結成30周年記念プロジェクトの一環として陽の目を見た
     のである。それがこの『ナイトキャップ』のディスク1であり、ディスク2には70年代から
     90年代にまたがるアウトテイクが18曲も収められている。
     これだけ聞いて「なんだ」などと思ってはいけない。未発表音源とはいえ、何故お蔵入り
     になったのか分からない程の、恐ろしいまでの完成度なのである。特にディスク1の
     「シャトー・ディサスター・テープス」。当初の計画通りなら、名盤『ジェラルドの汚れなき世界』
     に続く作品として、大絶賛を浴びていた事は間違いないであろう傑作だ。当時のタルの
     イメージ通り、クラシカルな雰囲気をたたえたプログレッシブな世界が、圧倒的な迫力と
     説得力を持って展開される。毎度の事だが、凄い!としかいいようがない。こんなのを
     ボツにするって事は、この程度ならまた作れるよ、という自信の現れであり、いかにこの頃
     のタルが絶好調であったかという証明でもある。で、実際にその後『パッション・プレイ』と
     いう傑作を生んでしまう訳だから、もう人間技ではない。当時のイアン・アンダーソンには
     神が憑依していたのではないか。本当に恐れ入ってしまう。
     そして、ディスク2のアウトテイク集も、これまた素晴らしい内容なんである。LPには時間
     制限があったので、レコーディングした曲全てを収める事は不可能なのは分かるが、
     それにしてもこれだけ完成度の高い曲たちが、本編に収録されず日陰に回ってしまうなんて、
     他のバンドからすれば、神は不公平な事をなさる、と天に呪いの言葉でも吐きたくなって
     しまうだろう。アウトテイクとは言ってるけど、決して“ボツ曲”でも“未完成曲”でもなく、
     単に“時間の都合でアルバムに収録出来なかった曲”なのである。そこんとこ勘違いしない
     ように。録音時期がバラバラだけど、しっかりと統一感はあるし、決してマニア向けなんか
     ではない、タル初心者が聞いても十分にタルの凄さが分かる内容だ。『ジェラルド〜』や
     『神秘の森』といったオリジナル・アルバムと同列に考えてもいいのではないか。
     しかし、聴けば聴くほどジェスロ・タルって凄いバンドだ。例によって、これ以上何も言う
     ことなし(笑)

NOTE 2005.8.13



 MUSICJEFF BECK LIVE AT BB KING BLUES CLUB
     先頃来日したばかりのジェフ・ベックだが、来日記念という事で、2003年に録音された
     ライブ盤が発売された。アメリカではインターネットのみで販売されていたそうで、いわば
     公式ブートレッグみたいな物なのであるが、内容は実に素晴らしい。来日公演行かなかった
     人は、これを聴いて激しく後悔するであろう。僕もそうである(爆)
     アメリカでネット販売されていた時は、紙袋にCDが入っているだけ、という素っ気ないもの
     だったらしいが、そのせいかクレジットの類がほとんどない。2003年9月10日にニュー
     ヨークのBBキング・ブルース・クラブ&グリルで録音されたと書いてあるだけだ。ライナー
     によると、バックを務めたのはトニー・ハイマス(Key)とテリー・ボジオ(Ds)という名手
     二人(2曲程女性ボーカルが入るのがあるけど、クレジットがないので誰か分からない)。
     1989年の『ギター・ショップ』のメンバーという訳で、ベックはこの二人ともツアーをした
     事もあるそうだから、気心の知れた間柄ってことで、とにかく弾きまくっている。凄まじい
     としか言いようがない(月並みだけど)。編集・加工一切なしというだけあって、ほんと生々
     しい演奏が堪能出来るのだ。テリー・ボジオも仲々に凄くて、「スキャッターブレイン」の
     あのフレーズをメロタムでやってしまう、という曲芸みたいなプレイも聴かせていて、テク
     ニック云々もさることながら個性的なプレイヤー3人が火花を散らす様が、その場で見て
     いるかのような迫力である。ファンならばもうたまらん、といった所だろうし、そうでない人
     も圧倒されてしまうはず。選曲も『ギター・ショップ』以降のレパートリーが中心だが、
     「フリーウェイ・ジャム」「スキャッターブレイン」といった定番曲や、インスト版「ピープル・
     ゲット・レディ」なども取り混ぜてファン・サービスもばっちり。そして、相変わらずなベック
     のプレイが楽しめるという事で、文句なしである。やっぱ、ベックは凄い(笑)

NOTE 2005.7.24



 MUSICTHE VERY BEST OF THE BEACH BOYS SOUNDS OF SUMMER
     ビーチ・ボーイズといえば、やぱり夏なんである。これは日本だけの事ではなく、全世界
     共通らしい。デビューしてから40年以上経つのに、未だに“ビーチ・ボーイズ=夏”という
     イメージがまとわりついているのが、このバンドにとって果たして幸なのか不幸なのか。
     ただ、少なくとも僕の場合、洋楽を聴き始めた70年代中頃、ビーチ・ボーイズは既に過去
     のバンド扱いだった。その時点で新作も出していた現役バンドであるのに、ラジオでかかる
     のは「サーフィン・USA」をはじめとする60年代のヒット曲ばかり。最新のヒットチャートを
     追いかけていたガキが興味を持てる存在ではなかったのだ。そういった経緯もあり、ビーチ・
     ボーイズには全く馴染みがなかったか、というとそうでもなく、名作とされる『ペット・サウンズ』
     や幻に終わった『スマイル』といったアルバムの事は知っていたし、中心人物のブライアン・
     ウィルソンにも興味があったし、なんといってもB・J・トーマスや山下達郎といった人たち
     によるビーチ・ボーイズのカバーを聴いてサーフィン以外にも良い曲がある事は認識して
     いたし、70年代から80年代にかけても大ヒットとはいかないけど、印象に残るヒット曲は
     出していたしで、ちゃんと聴いてみなければ、とは思っていた。ただ、手っ取り早くベスト盤
     を買おうとすると、60年代のサーフィン・ヒットがメインだったりして(悪いと言ってるのでは
     ないですよ。「アイ・ゲット・アラウンド」とか「ファン・ファン・ファン」とかは、非常によく出来た
     曲だと思ってます)、自分の聴きたい曲が入ってるのが少なかったので、結局手を出さない
     でいたのである。
     そういった意味で、このベスト盤は満足だ。「ドント・ウォリー・ベイビー」「ダーリン」「カム・
     ゴー・ウィズ・ミー」「ゲッチャ・バック」あたりがしっかり収録されているのが嬉しい。『ペット・
     サウンズ』から3曲入ってるので、入門編としてはちょうどいいし。ビーチ・ボーイズは決して
     明るいだけではない、というのもよく分かります(笑) 夏のイメージというか、僕などにとって
     は夏の終わりをイメージさせる曲が並んでいる。仲々奥深い世界なんである(笑)それでも
     タイトルは“サマー”なんだよね。確かに、彼らの全盛期は60年代だろう。70年代以降は
     ブライアンの病気などもあって、作品数もヒット曲も減り(1988年に「ココモ」が全米No.1
     になったけど)、90年代以降になると、ブライアンがソロで気を吐いているものの、バンド
     としてはほとんど新作出してないし、はっきり言って過去の作品の再発(未発表含む)で
     話題を提供するだけになってしまっている。これでは、いつまで経ってもサーフィンのイメ
     ージを払拭出来ないのも無理はない。けど、考えようによっては、そのサーフィンがある
     からこそ生き延びてきたとも言える訳で、そういう意味では案外したたかなのかな(笑)
     所で余談だが、このベスト盤を知ったのは某音楽誌の記事からなのだが、その記事では
     CCCDとなっていた。が、実際にはCCCDではない。単なる間違いという事で、後日訂正
     記事が載ったが、悪名高い東芝EMIからの発売という事で、CCCDに違いない、と先入観
     を持ってしまったのだろう。その気持ち、すご〜くよく分かります(爆)

NOTE 2005.7.16



 BOOKS鏡の中は日曜日/殊能将之
     才人・殊能将之がまたしても凄いミステリーを書いてしまった。この『鏡の中は日曜日』
     そして同時収録された「樒/榁」の2編とも、とんでもない小説である。これまで『ハサミ男』
     『美濃牛』『黒い仏』を読んで、凄い人だとは分かってたつもりだけど、この3編をさらに
     凌駕する傑作を書いてしまうとは...この先、彼は小説を書けるのかどうか心配である。
     どんなに才能のある人でも、一生に一つ書けるかどうかというくらいの小説を、既に(少な
     くとも)4つも書いてしまっているのだ。普通の人なら、もう打ち止めだろう。もし、殊能将之
     が、さらに凄い5つ目を書いてしまったら、この人こそ日本ミステリー界始まって以来の
     才能と呼ぶしかなかろう。悪いけど島田某なんぞ、足元にも及びませんよ(笑)
     という訳で、虚と実、過去と現在が入り乱れる中で展開される至高のミステリーであり、
     極上のエンタテインメントである。これ以上は言えません(笑) 文庫版の“石動戯作を殺し
     たことを少しも後悔していない”という帯のコピーにドキッとしつつ、寝食を忘れてお楽しみ
     下さい。
     それにしても、こんな素晴らしい小説を読む事が出来るなんて、これ以上の幸せがあるだ
     ろうか...

NOTE 2005.7.15



 MUSICBLOOM/ERIC JOHNSON
     久々エリック・ジョンソン(以下EJ)の新譜である。ソロ名義では『ヴィーナス・アイル』以来
     なんだそうで、とすると9年振り?!2001年に初めて彼のライブを見た僕が言うのも何だが、
     その間G3に参加したり、エイリアン・ラブ・チャイルド名義でアルバムを出したり、来日公演
     もしたり、ネットのみでCDを販売したりと、精力的に活動しているように見えたので、そんな
     に待たされた感じはないけど、やはり多くのファンが待ち望んだ新作という訳で、待たされた
     だけのことはある非常に素晴らしい内容になっている。やっぱりEJ凄い(笑)
     EJといえば、何と言っても七色のトーンな訳で、本作も曲調やフレーズに応じて自在に
     変化するギターサウンドが十分に楽しめる。ほんと、ギターだけでこんな音が出る事自体
     が驚異だ。ヤン・ハマーみたいな音で弾いてる曲もあって、これはご愛敬って感じ(笑)
     そのせいか、やや一時期のジェフ・ベックに近い感触もある。 
     今回は歌物が少ない(16曲中5曲)が、ディランのカバーだという「マイ・バック・ペイジズ」
     なんて彼のオリジナルにしか聞こえない。個性が強いディランの曲に挑んで、あっさりと
     ねじ伏せてしまうボーカリストとしての力量にも脱帽。何度も言うけど、ギターもボーカルも
     作曲能力も超一流で加えてルックスもいいのに、何故人気出ないのだろう。不思議で仕方
     がない。EJの音楽を聴く度に、その思いを強くしてしまう。
     ま、そんなこんなで素晴らしいアルバムなので、皆さん是非聴いて下さい。決してマニアック
     な音ではないし。個人的には、EJとバックのテンション高い演奏振りが堪能出来る前半が
     お薦めかな。根底にブルースが感じられるのがいい。後半のジャズっぽいのもわるくは
     ないけど。歌物では「サッド・レガシー」が素晴らしい出来。うん、やっぱりEJは凄いなぁ。
     聞く所によると、今年の秋エレクトリックセットで来日公演を行うそうで、こりゃ楽しみで
     ある。今から忍者さんにチケット頼んでおこう(笑)

NOTE 2005.7.7



 BOOKS黒笑小説/東野圭吾
     今や押しも押されもせぬベストセラー作家となった東野圭吾の新刊は、ブラックなユーモア
     溢れる短篇集である。随分前に出た『怪笑小説』『毒笑小説』と合わせて三部作といった
     所だろうか。文句なしに面白いし肩も凝らないので、出張等で長時間電車に乗る際のお供と
     して乗車前にお買い求めになる事をお薦めする(笑)
     ま、ストーリー展開にも構成にも文体にも定評ある人だから、悪くない訳がない。しかも
     タイトル通り、ブラックな笑いが満載だ(笑) フツーのサラリーマンが新人賞を取って
     しまった事から勘違いしていく過程が笑える連作「線香花火」「過去の人」、サクセスストーリー
     の影で暗躍するシンデレラを描いた「シンデレラ百夜行」、振られた彼女にストーカーに
     なる事を強要される「ストーカー入門」、新人賞選考会の名を借りて先のない作家を選別
     する「選考会」等々、一筋縄ではいかない物語ばかり。東野圭吾も人が悪いよなぁ(爆)
     こういうのを読んで爆笑するアナタも、相当に人が悪いです(自爆) ま、そんな訳ですので、
     書店で見かけたら是非手に取ってみて下さい。深いテーマに貫かれた長編とは違う東野
     圭吾を堪能出来ます。

NOTE 2005.6.29



 MUSICTHE SECRET LANGAUAGE OF BIRDS/IAN ANDERSON
     正に樽漬け(笑) これはジェスロ・タルのリーダー、イアン・アンダーソンが2000年に
     発表した、通算3作目にあたるソロ・アルバムである。全編に渡って、彼のフルートと
     アコースティック・ギターをフィーチャーした穏やかで気品に満ちたフォークミュージックが
     展開される。実に心地よい。フォークったって、ボブ・ディランや南こうせつとは全く違う物
     である事は断らなくてもお分かりだろうが(笑)、トラッド風だったりクラシカルだったりするし、
     加えて、とあるタルのファンサイトにも書いてあったけど、実にメロディが豊かで、決して
     飽きさせる事のない、素晴らしいアルバムに仕上がっている。ドラマティックではないけど。
     アンダーソンのボーカルも、暖かみが感じられてすごくいい。思えば、ブルースとフォーク
     (トラッド)をルーツに頂きながらも、色々な音楽の要素を飲み込んで、オリジナリティ溢れた
     ジェスロ・タルの音楽を作ってきたアンダーソンが、30年もの活動の末にたどり着いのが、
     こういった世界なのだろうか。本当に、悟りを開いたかのような清々しさが感じられる。
     明らかにタルとは違う音楽だけど、タルらしい部分もあちこちに顔を出しているし、ファン
     ならば大満足の内容と思う。もちろん、ファンでなくても、アコースティックな音楽が好きな
     人なら、必ずや気に入って頂けるであろう好盤だ。一部のタル・ファンだけが聴いてるなんて、
     実に勿体ないアルバムである。

NOTE 2005.6.3



 BOOKSI’m sorry,mama./桐野夏生
     この所、実録に基づいて犯罪と女性との関わりをテーマに書き続けている桐野夏生で
     あるが、この『I’m sorry,mama.』も親を知らず売春宿で育った松島アイ子が、
     悪事を重ねながら生きていく様を描いた小説だ。自分が生きていく為には人を殺す事
     など屁とも思わない悪女振りが痛快か、というとそうでもなく、かといって憐れみをもって
     描いているのでもなく、あくまで描写は淡々としている。感心するのはアイ子のたくましさ
     というか、生命力の強さというか、どんな姿になろうとも生きていこうとする姿勢は、確か
     に大したものと言えないこともない。というか、この小説の登場人物たちは、どいつも
     こいつもとんでもないのばかりなのだ。擁護施設で教員をしていた時に、親子ほども年
     の違う少年に目をつけて入籍し、ままごとのようなセックスに励む美佐江、妻が寝たきり
     になると同時に女装の趣味に目覚めた隆造、水商売から這い上がり巫女的なカリスマ性
     で全国大手ホテルチェーンの社長に納まっている志都子、双子の片方と結婚したが
     その双子が同居している為、どちらが自分の夫か分からなくなっている正代、売春宿で
     働いていた時に土地の権利書を盗み、跡地にその双子とクリーニング屋を開業している
     静子等々、はっきり言って普通の人たちではない(何が普通なのかと問われると困る
     けど...)。そういった(僕からすると)普通ではない人々がアイ子と関わり合い、また
     各々のドラマが織り込まれて、実に面白い読み物になっている訳だ。単に面白い、だけ
     で片付けてはいけないのだろうけどね。たとえ普通ではなくても、それぞれの世界で
     生きる人たちの人生を感じ取らなければ、この小説を読む意味はないのだろう。アイ子
     の、会った事のない母親に対するやや屈折した想い、とかね。
     ま、そこまで深く考えなくても大変面白いのでお薦めします。やっぱ、テーマはちと重い
     かな、という気はするけど(笑)

NOTE 2005.5.26


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