最近のお気に入り
(バックナンバー31)
CD、小説、映画など流行に関係なく、また新旧を問わず
最近気に入ったものを紹介します。
=音楽関係
=書籍関係
=映像関係
さおだけ屋はなぜ潰れたのか?/池田浩明
正真正銘のアホ本である(笑) タイトルを見てもお分かりのように、去年ベストセラーとなった
『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』のパロディだ。fxhud402さんのお薦めだったので読んで
みたが、面白い。アホらしと思いつつ面白い。とにかく、面白い。ほんと、騙されたとしか思えない
だろうけど、是非皆さんに読んで貰いたいと思う次第である(笑)
と、これ以上何を言えというのか、ってな感じだけど、これじゃレビューになっていないので、軽く
中味について触れると、ベストセラーと聞くと、書かれている事を何でも信じ込んでしまう男が、
店員に騙されてはベストセラーを読みまくり、暴走しまくる、というストーリーである。『バカの壁』
『チーズはどこへ消えた?』『生協の白石さん』等々、誰でも知ってるベストセラーが次々と登場し、
なんとなく全て読んだような気にさせてくれる、という有り難い小説でもあるのだ。しかし、こうして
見ると、近頃のベストセラーって、意味不明の啓蒙本ばかりで、別に金出して読まんでも...
という気になってしまうが(笑)、そういったベストセラーに飛びつかずにはいられない主人公を
通して、ベストセラーに振り回される世間の人々を皮肉ってる訳で、「バカじゃねーの」なんて
笑ってるのもいいけど、結局自分も同類なんだろうか、なんて事も心配になりつつ、気がつくと
読み終えてる、とそういう本だ。人は何かにすがらないと、生きていけないのね。
という訳で、面白いので断然お薦めである。つーか、この本を読んで本気で怒ってしまう人とは、
多分話が合わないだろうな(爆)
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NOTE 2007.4.3
妖精の森/アイン・ソフ
先日、たまたま出かけて行ったライブにアイン・ソフが出演していた、というのはブログにも書いたけど、
その時「旧作が再発されます」とMCで宣伝してたのが、このアルバム。言ってた通り、確かに1500円
だった(笑) ま、「再発されるたびに安くなる」とメンバーがボヤいてたけど(笑)、すぐに入手困難に
なってしまうこういったアルバムが、廉価で手に入るのは、リスナーとしては喜ばしい。売れても印税
収入は少ないかもしれないが(笑)
という訳で、この『妖精の森』、アイン・ソフの1stで1980年に発表された。当時流行りだったフュー
ジョンの方法論も取り入れたインストで、高度なテクニックを惜しみなく駆使したインプロビゼーション
も見事だが、幻想的なメロディを散りばめた曲構成がなんといっても素晴らしい。ライナーによると、
ソフト・マシーン、キャラバン、キャメルといったバンドたちの影響を強く受けているそうだが、ソフト・
マシーンよりは間違いなく聴きやすい。生ピアノからシンセまで、各種のキーボードを自在に操り、
ソロにバッキングに卓越したプレイを聴かせる服部眞誠の頑張りが、アルバム全体に緊張感と彩りを
与えているように感じるが、これまたライナーによると、彼と他のメンバーとの志向が異なるため、
喧嘩が絶えなかったそうな。なんでも、服部はカンタベリー系よりもウェザー・リポートが好きだった
らしい。なんというか、高次元の話だなぁ(笑)
しかし、こんな凄い事を20年以上も前にやってた訳で、あの頃の日本のバンドは本当に凄かったのだ、
という事を改めて実感する。いつも同じこと言ってるけど(笑) アイン・ソフは今も現役だし、是非
皆に聴いて欲しいな、と思うのである。所で、今回の再発だけど、アイン・ソフが所属していた「ネクサス」
というレーベルの作品がまとめてリリースされていて、そのラインアップがなかなかに凄い。ノヴェラ、
美狂乱といった名前に混じって、アースシェイカーもあったりして、ちょっと毛色が違うなという気も
するが(笑)、いずれも現在でも根強いファンが存在し、伝説となりつつも現役で頑張ってるバンドも
多い。関西出身のバンドが多い、というのも興味深いな(アイン・ソフもそうだ)。日本のロック黎明期
のアナザーサイドとして、是非こういったバンドたちにも、光を当てて欲しいものだ。
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NOTE 2007.3.21
魂萌え!(全2巻)/桐野夏生
近頃、ダークな作品の多い桐野夏生だが、この『魂萌え!』はそうでもない(笑) 平凡な専業主婦
だった主人公が、夫の死を契機に自分を変えていこうとする物語だ。風吹ジュン主演で映画化されたが、
今回は僕にしては珍しく(笑)、映画を先に見てから原作を読んだ。映画の宣伝などでも紹介されて
いるが、夫の葬儀が済んだ直後、携帯にかかってきた電話で主人公は夫に10年来の愛人がいた事
を知る。そのショックと遺産相続を強引に進めようとする息子とも対立し、彼女は家を飛び出しカプセ
ルホテルに投宿する。ここいらまでは、ご存知の人も多いだろうけど、話はここからなのである。映画
では、この家出に至るまでの経緯を短縮してしまっているので、主人公が突然キレてしまったような
印象を受けるが、小説を読むとそこに至るまでに、色々な葛藤があったというのがよく分かる。相続
の件で息子と対立と書いたが、小説では、一度は息子に懐柔されたりしている。この辺の心理の描写は
やはり映画は小説にはかなわないな、と実感させられる。下巻に入ると、映画では省略されたエピソ
ードばかりである。主人公が、離婚危機にある息子の嫁から金の無心をされたり、デパートでふと
知り合った女性雑誌編集者と交流したり(これ、ラストにどんでん返しあり)、と意識変革に大きな影響を
与える興味深いエピソードが次々と出てくるのだが、映画では見られない。やはり、こういう点に於い
ては、小説の方が面白い。物語としては、主人公が変わっていく過程を追っている訳で、いくつかの
エピソードをカットしたとしても、大筋には影響ないのだが、細かい心理描写のない映画だと、あれこれ
悩んだりするのが見えないので、決断が早いみたいだけど、実はそうじゃないんだなぁ(笑) そんな
楽しみもあるので、『魂萌え!』に関しては小説の方がお薦めかな。けど、映画がつまらないというの
ではない。両方楽しむのがいいのかも(だから、どっちなんだ)
夫に先立たれた初老女性の“自分探し”の物語、なんて言われそうだが、そんな単純なものではない。
文庫本解説にもあるように、今まで自分で主張する事をしなかった主人公が、自分の意志を明確にし、
それを表現する術を身に付けていく過程を描いた小説と言える。読み進むにつれて、徐々にたくましく
なっていく主人公にエールを贈りたくなる事必至である。人間は誰しも、いつか一人になる。その時
どうするのか、しっかりとした意志を持つ事が、やはり必要だ。この『魂萌え!』の主人公は、右往
左往しながら、最後にはそれを実現するのである。最近の桐野作品の中では、珍しく非常に清清しい
読後感の残る小説だ(笑)
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NOTE 2007.3.18
そして殺人者は野に放たれる/日垣隆
ミステリーみたいなタイトルだが、中味は著者渾身のドキュメントだ。殺人を犯しても、「心神喪失」の
名の下に裁判で無罪になったケースを多数取り上げ、日本の裁判のあり方に異議を唱え、警鐘を
鳴らす。呼んでいるだけで、そら恐ろしくなってくるし、またいいようのない怒りが込み上げてくる。
これでも日本は法治国家と呼べるのか。日本人として生まれた事を後悔した事はないが、こういう本
を読むと、日本人である事がつくづく情けなくなってしまう。
殺人を犯して逮捕されても、あまりにも不可解な動機である場合、精神鑑定にかけられ、事件当時
冷静な判断を下せる状態ではなかった、と判断された場合、もしくは精神病の治療経歴がある場合、
犯人は間違いなく「心神喪失」と診断され、無罪となる。日本には、こうした犯罪者を治療・更生させる
施設もブログラムもなく、よって措置入院させられることもないから、「心神喪失」の殺人者たちは、
大手を振って町を歩いている訳だ。これが現状である。こうした事例は、プライバシーの保護という
名目で、報道されることはないから、一般には伝わりにくい。知らないうちにも凶悪事件の犯人が、
世間に解放されているのだ。加害者の人権ばかりが尊重され、被害者や被害者遺族が顧みられる
事はない。なぜ、こんな事になってしまったのか。僕は、この本を読んで初めて知ったのだが、その
裏には刑法39条の存在がある。簡単に言ってしまえば、重罪を犯した者でも、犯行当時に心神喪失・
心身耗弱の状態にあった、と認められた場合は罰しない、というものだ。この心神喪失には、精神病
の他泥酔状態も含まれる、と知って僕は愕然とした。酒の飲んでの犯罪は無罪なのだ。こんなことが
まかり通っていいのか。この場合でも、軽犯罪であれば罪に問われるのであるが、殺人などになると
途端に無罪となる。これに則ると、こないだ世間を騒がせた、泥酔して車を運転した挙句、橋の上で
前の車に衝突し、乗っていた一家を海に車ごと転落させて死なせた福岡の公務員も、心神喪失が
適用されて無罪になるのだ。下手すると、起訴さえされず裁判にかけられることもないかも。ま、この
福岡の例の場合は、殺意はなかったみたいだから、また違う展開になるかもしれないが、とにかく
無罪になる。これでは、正に“死に損”である。でも、これが、今の日本の司法の姿なのだ。司法関係者
及び犯罪者に有利な鑑定をする精神科医には天誅を加えるべきであろう。
確かに、著者あとがきにもあるように、決して楽しい読み物ではない。やり場のない怒りが込み上げる
だけだ。しかし、それだけに考えさせられる一冊である。著者の日垣隆は、10年以上にも及ぶ綿密
な取材と調査・検証を重ねて、本書を上梓したという。データや資料もしっかりしているし、本人の豊富
な知識もあり、非常に説得力がある。新聞やテレビでは知らされる事のない真実が、この本にはたく
さん書かれている。僕自身も、いかに知らない事が多かったかを実感し、恥じ入ってしまった次第。
やはり、与えられる情報だけでは真実は見えてこない。
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NOTE 2007.2.23
NARKISSOS/サディスティック・ミカ・バンド
遅ればせながら(笑)、ザティスティック・ミカ・バンドの新作、なんと17年ぶりに登場である。タイミング
が合えば集まってレコードを作る、という事だが、本当に気まぐれというかマイ・ペースというか(笑)
今回は、加藤和彦・小原礼・高橋幸宏・高中正義、といったお馴染みのメンバーに加え、注目の女性
ボーカルは木村カエラである。いいのか、今度はプロ歌手だぞ、なんて思ったりもしたが(笑)、彼女
なかなかハマっていてよろしい。
と、まあ、各誌で絶賛されている訳だが、確かに素晴らしい。冒頭の「Big−Bang,Bang(愛的相
対性理論)」がとにかく強烈だ。いきなりイントロのリフにノックアウトだ。カエラの歌いっぷりもいい。
今まで、素人女性(プロの歌い手でない、という意味です。他の意味にとらないように)をボーカルに
起用してきたミカ・バンドだが(実は、松任谷由実もミカ・バンドに2代目ボーカルとして参加した、と
いう説もあるけど...)、今回の木村カエラはプロであって、これまでのようなミスマッチ感(それが
また魅力なのだ)は希薄だけど、その反面、実にオーソドックスなロックの香りがする。「Big−Bang,
Bang(愛的相対性理論)」はもちろんのこと、「King fall」「sockernos」など、オールドファンには
たまらないであろう、古き良きロックだ。インストのタイトル曲も素晴らしい。そして、何よりサディス
ティックスたちの演奏がいい。おじさんたちがロックしてる。年季入ってるぞ(笑) そんな中で、まるで
娘みたいな年齢のカエラが、また気持ち良さそうに歌っているのだ。この人の事はよく知らなかった
けど案外やるもんだ。ちょっと見直した気になった(笑) 残念なのは、彼女のボーカル曲が2曲(ボー
ナストラックとして収録された「タイムマシンにお願い 2006 Version」は除く)しかないこと。せめて、
半分は彼女に歌わせて欲しかったなぁ。あと、もうひとつ残念なのは、前回もそうだったけど、全盛期
を支えたキーボードの今井裕の名前がないこと。某誌での加藤和彦のインタビューによると、今井と
は解散以来会ってないし連絡もとってない、という事だが、だからと言って再結成に呼ばないというの
はどうかと思うけど。あの名作『黒船』も『HOT!MENU』も、今井裕なしにはあり得なかっただろう。
プレイでも作曲面でも、バンドへの貢献度は、他の人に負けず劣らず高い人なのに。次回は(いつな
んだ?)、是非今井裕を呼んで下さいね(笑)
てな訳で、適当にやってるようでも、凄い事をやってしまうミカ・バンドの本領発揮という感じのアルバ
ムである。いいですよ、ほんま(笑)
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NOTE 2007.2.8
FACE THE PROMISE/BOB SEGER
なんとボブ・シガーの新作である。去年の9月に出ていたそうな。前作『It’s A Mystery』が出た
のが1995年だったから、11年振りだ。なんとも長いブランクだが、その11年振りの新作がブランク
も衰えも全く感じさせない出来栄えであるのが、何よりも素晴らしくファンとしては嬉しくてならない。
今回はソロ名義で、シルバー・ブリット・バンドの名前がないのが寂しいが。
実際、ボブ・シガー今何歳なのか知らないが、歌声は全然変わらず、サウンド的には以前にも増して
骨太でアグレッシブな感じなのが凄いと思う。ジャケットを見ると、頭や髭はかなり白くなっているよう
だけど(笑) 全編に渡って、ひたすら前を向き、先へ進もうという意志が感じられる。枯れた味わいとか、
悟りの境地、などといったものにはボブ・シガーは全く無縁のようだ。思えば、1994年に出た初の
ベスト盤に、かなり年いってから授かった息子をテーマにした新曲が収められていて、やはりこの人
もフツーの人だったのだな、とやや寂しく思ったり、前述の『It’s A Mystery』が、バンド名義では
あるものの、打ち込みを多用した作りで、新境地を狙うつもりが完全に裏目に出て、この人ですら
新しいスタイルを模索するのか、なんて感じたりして、要するにボブ・シガーも落ち着きたくなってきた
のだろうか、なんて勘ぐったりしたのが嘘のようだ。この新作でのボブ・シガーには、迷いなんてかけら
もない。デビュー時から貫いてきた自身のスタイルを、頑なに続けていこうという強靭な意志がある。
それでこそボブ・シガーだ。流行とは無縁の音楽を作り続け、不器用そうに見せつつも、しっかりと
セールスに結びつけ、アメリカン・ロック界に確固たる地位を築いて、80年代・90年代を乗り切って
きたロッカーならではの、自信に満ちた歌声を堪能する事が出来る。何度も言うが、『It’s A
Mystery』は一体何だったのか?(笑) 本当に、もうこのまま死ぬまで突っ走って貰いたい。ツアー
はするのだろうか。さすがにちとキツいのかな(笑)
相変わらずく臭いアルバム・タイトルもらしくていい(笑) どの曲も似通ったメロディのようでいて、
ミョーにフックが効いていて飽きさせない曲作りの才も健在だ。必ず女性コーラスを絡ませるのも、
いつものパターン(笑) こういった、必殺のボブ・シガー流に加え、知らない名前だけど達者な面々
が固めるバックの音もいい。以前よりちょっとスマートな感じのする音だ。昔ながらのワンパターンの
中にも新鮮味が感じられる。ほんと、これからのボブ・シガーが楽しみだ。久々にアルバム出して、
また隠遁生活なんてのは勘弁して欲しいな(笑) 積極的にツアーに出て、死ぬまでロッカー、って事
で頑張って貰いたい。そして、是非来日して欲しいな。今、何歳なのかは知らないけど(笑)
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NOTE 2007.1.24
LEGEND/POCO
ポコである。ミョーに可愛い名前なんで、印象に残っていた。いわゆるカントリー・ロックのバンドで、
ジム・メッシーナとかリッチーフューレイとかランディ・マイズナーとかいった、錚々たる面々により
70年代初め頃に結成されたそうな。あの、ティモシー・B・シュミットも在籍していた。彼は、ランディ・
マイズナーの後釜としてポコに入り、数年後にはやはりランディ・マイズナーの後釜としてイーグルス
に加入する、という数奇な運命を辿っている(笑)
とまあ、それはさておき、この『Legend』である。1979年に発表された、彼らの大ヒット作だ。この
アルバムからシングル・カットされた「Crazy Love」が好きで、FMで耳にしたタイトル曲もカッコよくて、
非常に欲しかったのだが、経済的理由で叶わず(笑)ずっとそのままになっていた。こういうパターン
って多いのだ。特に高校生の頃は(笑) 当時も(今も)ポコなんて名前くらいしか知らず、同じカント
リー・ロックという事で、イーグルスを小粒にしたようなバンドだと思っていた(失礼!) 実際、大半
のロックファンにとっても、ポコに対する認識は似たようなものであったろう。特に目立ったヒット曲も
なかったし。ただ、このアルバムの大ヒットで、ポコは名前を知られるようになり、息の長い活動を
していくようになるのだ。事実、後年『Legacy』という似たようなタイトルのアルバムも出たし、この
『Legend』のジャケットに登場した馬の絵は、他のアルバムにも使われるようになる。本作は、名実
共にポコの代表作でもある訳だ。
で、肝心の中味なのだが、30年近く経った今聴いても、なかなか素晴らしい。この頃はラスティ・
ヤングとポール・コットンの双頭バンドになっていたようだが、アメリカン・ロックの頂点に立ち、ミョー
にシリアスになっていた当時のイーグルスに比べると、遥かにウェスト・コーストらしいサウンドを
聴かせている。3枚目あたりまでのイーグルスを彷彿とさせる音でもある訳だが、正直『ホテル・カリ
フォルニア』よりはいいと思ったし、単に爽やかなだけでなく、ハードなギターを聴かせる曲もあり、
バラエティに富んでいて楽しめる。やはりシリアスでないのがいいのだ(笑) ラストに収められたタイ
トル曲が、そのタイトルとは裏腹に前向きなものを感じさせる仕上がりになっているあたり、ポコの
明るい未来を予感させる。実際には、この後のポコは本作に縛られてしまった感もあるのだが(笑)
ま、そういうのはともかく、70年代ウェスト・コースト最後の名盤と言っていいと思う。うん、いいアル
バムだ。やっぱり、無理してでもあの時買っておくべきだったな(爆)
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NOTE 2007.1.19
使命と魂のリミット/東野圭吾
何を今さら...という感のあった直木賞受賞から一年、もともとキャリアもあり、作家としての評価も
確立している東野圭吾だけに、直木賞受賞などでペースが狂うことはないのである(笑) 毎年、2〜
3冊の単行本を出すペースは、ここ何年も変わらず、しかもどの作品もレベルが高い。作家としての
活動以外には、全く色目使わないのも立派。ほんと、大したものである。
という訳で、本作は東野圭吾の先月出たばかりの最新作。今回のテーマは“医療”である。中学生の
時に、最愛の父を動脈瘤で失った氷室夕紀は、父の死以来頭を離れない疑問に対する答えを得る
ため医者を目指し、父の執刀医でもあった西園陽平の元で、研修医として働いている。彼女の疑問
とは、西園が最大限の努力をせず父を見殺しにしたのではないか、というものだった。折りしも、父の
死後女手ひとつで夕紀を育てた母が、その西園と再婚する事になり、夕紀の疑念は益々膨らんでいく。
一方、エンジニアの直井穣治は、あるたくらみを胸に秘めて、夕紀と同じ病院に勤める看護婦に
近づいていく。目的は、入院中の要人の手術を邪魔して失敗させること。彼は一体、何のために手術
の邪魔をしようとするのか。物語は、決してクロスする事のない2人を軸に展開する。そして、穣治が
狙う要人の執刀を西園が担当する事になり、夕紀は補佐を命じられる。手術は無事に終わるのか。
穣治は思いを遂げることは出来るのか。父を見殺しにしたのでは、と疑う西園の執刀ぶりを目の前に
して夕紀は何を思うのか。と、僕がストーリーを紹介すると、三文ドラマみたいになってしまうが(笑)、
実際には緊張感に溢れた筆致で、最後まで一揆に読んでしまうのだ。今回は、特に珍しいトリックは
なく、ミステリーというには喰い足りないかもしれないが、夕紀と穣治を通してしっかりと物語に取り込
まれてしまう訳で、やっぱり東野圭吾は凄い。ラストも爽やかだ。夕紀の父が死の前に言い残した
「人間というのは、その人にしか果たせない使命というものを持っているものなんだ」、という言葉も
印象的。というか、本作の最大のテーマはこれなんだけど(笑) 是非とも、この言葉を噛みしめなが
ら読んで頂きたい。
と、あれこれ訳分からん事を書いてるけど、要するに「面白い、お薦め」ってことね(笑) 今時、金を
払った分、確実に楽しませてくれる作家なんて、東野圭吾くらいではなかろうか。ま、ひとつよろしく(爆)
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NOTE 2007.1.15
HITTIN’ THE NOTE/THE ALLMAN BROTHERS BAND
またまたオールマンズ(笑) 本作は、今まで紹介したのは違って、2003年に出た目下の所の最新
作だ。メンバーは、グレッグ・オールマン、ブッチ・トラックス、ジェイモー、のオリジナル・メンバーに、
ギターのウォーレン・ヘインズ、デレク・トラックス、ベースのオテイル・バーブリッジ、パーカッションの
マーク・クィノンズの総勢7人という大所帯。ウォーレン・ヘインズは、1990年のオールマンズ2度目
の再結成時に参加し、高い評価を受けた人。一時バンドを離れていたが、このアルバムから復帰し、
今やオールマンズの中心人物である。デレク・トラックスは、もう説明不要ですね(笑) こないだの
クラプトンのツアーにもサポート・ギタリストとして抜擢された。オールマンズには1997年から参加。
自身のバンド、デレク・トラックス・バンドでも活躍中。詳しくは↓を(笑)
と、そんな21世紀のオールマンズだが、とにかくド迫力、重量感溢れる演奏が素晴らしい。なんたって、
ツイン・ドラムにパーカッションだもんね。音圧が違うのだ。リズムもより多彩になったし。そして、
分厚いリズム・セクションに負けじとグレッグが素晴らしい歌を聴かせ、2人のギタリストもひたすら
弾きまくっている。レイドバックした雰囲気や、ベテラン・ブルース・バンドにありがちな枯れた味わい、
とかはあまりないけど、それはそれでいいのではないだろうか。豪快でどっしりとした現代のサザン・
ロックだ。とにかく、一曲目の「Firing Line」がひたすらカッコいい。骨太なギターのリフに、ドラムと
ベースが絡んでくるイントロからしてゾクゾクしてしまう。もうカッコ良くて言う事なし。スローな曲は
あるけど、いわゆるバラード・タイプの曲がないのもよろしい。ひたすら直球勝負で押しまくって小気味
がいい。自信に溢れている。しかも、所々に狙ってるのかどうか、かつてのオールマンズの曲によく
見られたフレーズが顔を出したりして、思わずニヤリ(笑) ジャムがウリのバンドでもある訳だが、
LPと違って収録時間に余裕があるせいか、どの曲もたっぷりとソロを入れて長くなってるけど、いい
感じで展開させている。一曲入っているインストのタイトルが「Instrumental Illness」ってのも、
オールマンズらしいな、って感じ(笑) この曲、ラストには「Whipping Post」みたいな展開になっ
たりして、なかなか聴かせます(笑) アルバムの最後は、アコギとドブロでアコースティック・ブルース
で締める、ってのもいい。今さらサザン・ロックなんて...という時代であるからこそ、ひたすら男臭く
迫るオールマンズのスタイルが貴重であり、また凛々しいのだ。あー、今のオールマンズ見たいな。
来日しないかな。
しかし、新世紀オールマンズが、ここまで素晴らしいアルバムを作ってるとは思わなかった。今まで
聴いてなかったのが悔やまれるくらい(笑) 現在の中心はウォーレン・ヘインズだけど、グレッグも
頑張ってるし、デュアンがいないオールマンズなんて...とおっしゃる人にこそ、新世紀オールマンズ
を聴いてみて欲しいと思う。30数年前の復刻ライプ盤を聴くのもいいけど、そればっかじゃ未来は
ないよ(笑)
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NOTE 2006.12.26
グロテスク(全2巻)/桐野夏生
桐野夏生の最高傑作との誉れも高い『グロテスク』が文庫になったので、ようやく購入したのである。
確かに、最高傑作という呼び名に恥じない面白さだ。ただ、前に紹介した『ダーク』がそうであった
ように、全編悪意に満ち溢れた内容で、読んでて楽しくなる小説ではない。ま、桐野夏生の作品には、
そんな明るい内容のものはないのだけど(笑)
覚えている人も多いだろうけど、10年近く前に「東電OL殺人事件」というのがあった。東京電力に
勤めるエリートOLが殺された事件で、彼女が昼はOL夜は娼婦という二重生活を送っていた事が
明らかになり、かなり話題になったものだ。この『グロテスク』も、その事件をモチーフに書かれたもので、
出版当時桐野夏生自身もそういう発言をしていた記憶がある。一流大学を出て一流企業の要職にある
OLが、何故夜は娼婦として街角に立っていたのか、小説家でなくても興味をそそられる。多分に
ワイドショー的な興味ではあるのだが。ただ、『グロテスク』では、この事件をモデルにはしているが、
主人公というか語り手は殺されたOLではなく、その周辺の女性であり、物語も彼女が自分の生い立ち
を語る所から始まる。OLは、語り手の女性の高校時代の同級生という設定。後半、OLの残した手記
が紹介され、その二重生活が明らかにされるのだが、この部分は重要ではあるが、『グロテスク』の
一部にすぎない。物語の中核を成すのは、語り手の女性が吐露する自身の心の闇というか、美しす
ぎる妹や要領の悪い同級生(OL)そして世間に対する嫌悪、怒り、といったものであり、これがまた
気持ち悪くなるくらいリアルなのである。この語り手を含む女性たちが、どのように道をはずれていく
のか(道をはずれる、という表現は適切でないかも)を読み進んでいくと、なんか気が滅入ってくるし。
ただ、破滅(と言っていいのか)へと突き進んでいく彼女たちの心理は理解し難いが、妙に説得力を
持って迫ってくるので、“入って”しまう小説であるのは間違いない。あまりお薦めはしないけど、面白い
のは確かだ。こういうのは、無理に分かろうとしない方がいいのかもしれない。
しかし、『I’m sorry mama』『リアル・ワールド』『ダーク』と、どうしようもない人間とその暗部を
書き続ける桐野夏生の意図はどこにあるのか。どうにもよく分からんけど、僕はまた桐野作品を読んで
しまうだろう。もしかしたら、その暗い部分があるからこそ、人間らしいのかもしれない。
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NOTE 2006.12.23