私選名盤100選

091〜100


091  不思議/中森明菜
(1986)
不思議
例の自殺未遂事件以来、転落の一途という感のある中森明菜だが、実力は申し
分ないし、よけいなことはせずレコード制作に専念するとかして、歌手としてまだま
だやれる所を見せて欲しい。で、このアルバムだが、彼女が歌手として人気の絶
頂にあった時期に出たもので、その内容にはファンならずとも驚いただろう。とに
かくボーカルが聞こえない(聞き取れない)レコードだったのだから。また、サウン
ドも打ち込みによるヨーロッパ的ムードを漂わせた退廃的且つ官能的なもので、
およそ歌謡曲歌手のレコードとは思えなかった。クレジットによるとプロデュース
は明菜自身となっているが、彼女がどういう意図でこんなアルバムを作ったのか
は不明だ。ファン以外の人にも十分鑑賞に耐える出来であるのだが。


092  FENCE OF DEFENSE(1987)
FENCE OF DEFENSE
北島健二、西村麻聡、山田亘の3人によるこのバンドのファーストアルバムは衝
撃的だった。音の基本はハードロックなのだが、打ち込みのビートと融合させたサ
ウンドはネオハードロックとも呼ぶべきか、とにかく刺激的でカッコ良かった。北島
のややアナクロなギターがまた素晴らしく、ベテランによる古さと新しさを違和感な
く兼ね備えたロックバンドとして、僕は夢中になってしまったものだ。打ち込みとい
ってもデジタルな感触のものではなく、打楽器やハンドクラップをサンプリングした
パーカッシブなもので、聴いていて血がたぎってくるような感じがする。所々シンセ
を使ったアレンジも効果的。曲もよく出来ており、特に「Burn」「Faithia」の2曲が
素晴らしい。表現する言葉に困るほど完璧なアルバムだ。


093  I WILL SURVIVE/真心ブラザーズ(1998)
I WILL SURVIVE
この人達、元はフォークデュオだったそうだ。僕が初めて聴いたのはあの名曲「エ
ンドレス・サマーヌード」で、その独特の和製ソウルのスタイルは確立されていたと
思う。そして、このアルバムを聴いた訳だが、最近死語になっているソウルという
言葉が一番似合うのではないか、と思える。倉持陽一は武骨で男っぽく、桜井秀
俊はややソフィスティケイトされて優しく、という2人の個性の違いはあるが、ブラコ
ンなどという言葉で呼ばれるようになる前の、正にソウルと言っていい音楽がここ
にはある。倉持の曲では何と言っても「RELAX〜OPEN〜ENJOY」がお薦め。
気恥ずかしいような歌詞を歌っても臭くないのが、彼の強みか。桜井の方では「メ
トロノーム」が最高。頼りなげなボーカルがまたいい。


094  PEARL PIERCE/松任谷由実(1982)
PEARL PIERCE
80年代のユーミンはよく聴いていた。荒井由実時代と違い、したたかな大人の女
の歌という感じで良かったし、松原正樹、高水健司といった売れっ子セッションマ
ンを配したサウンドも、当時としては最先端だった。もちろん、松任谷正隆の素晴
らしいアレンジも忘れてはいけない。中でも一番好きなのが、このアルバム。「真
珠のピアス」の歌詞世界が話題となったが、「フォーカス」「消息」など隠れた名曲
も多く、またバラエティに富んでいる。他にももっとパワーのあるアルバムはあるけ
ど、さりげないセンスの良さ(曲もアレンジも)という点ではこのアルバムでしょう。「
昔の彼に会うのなら」のような、中華風レゲエ(?)とでも言うべき摩訶不思議な雰
囲気の曲が知らん顔して収録されてるのも、このアルバムの凄い所。


095  SPEAK LOW/南佳孝(1979)
SPEAK LOW
南佳孝といえば、「ウォンチュ〜」の人か、と言ってたのは昔の話。今はその「ウォ
ンチュ〜」すら知ってる人は少ない。その南佳孝が「ウォンチュ〜」より2年程前に
発表したのがこのアルバム。フィリップ・マーロウ・シリーズから取られたタイトル
からも察せられるように、ハードボイルドな歌世界がスティーリー・ダン風のシティ
サウンドに乗せて歌われる。作詞は2曲を除き松本隆で、この2人のハードボイ
ルド趣味が全開だ。少々やりすぎ、って気がしないでもないが。ただ、サウンドは
完璧。細野晴臣、坂本龍一、小原礼らによる都会的雰囲気をたたえた演奏は絶
品だ。南佳孝自身も気持ち良さそうだ。デビュー時から、流行に背を向けて彼が
追求してきた音楽のひとつの到達点が、このアルバムである。


096  MY LITTLE RED BOOK/MOON CHILD(1997)
MY LITTLE RED BOOK
エイベックスが初めて手がけるロックバンドということで、デビュー当初話題になっ
ていた記憶がある。1997年、テレビ番組の主題歌だった「ESCAPE」がオリコン
の一位になってブレイクしたのは、皆さん御存知でしょう。この「ESCAPE」はサー
フっぽいサウンドだったが、アルバムを聴いてみるとオーソドックスな、歌をメイン
にしたバンドであることが分かる。ボーカルの佐々木収という人は、実に様々なス
タイルの曲を書く人で、「ESCAPE」の次のシングルだった「アネモネ」は爽やかな
ポップチューンだし、「微熱」はアメリカンロックタイプの曲だったりする。そういった
色々なスタイルの曲を上手くアレンジして、統一感を持たせているバンドのセンス
も仲々のものである。1999年に解散してしまったが、実に惜しいバンドだった。


097  最後の晩餐/ムーンライダーズ(1991)
最後の晩餐
現存する日本最古のロックバンドであるムーンライダーズ。デビューから20年以
上が経過しても、今なお衰えない創作意欲というか、バンドへのこだわりは素晴ら
しい。若いバンドも見習うべきである。メンバーが各々バンド以外にソロ活動やプ
ロデュース業などをして、適当にガス抜きをしていることが長続きしている要因だ
ろうか。とにかく、これまでヒット曲こそないが、日本のロック界の重鎮とも言える
ムーンライダーズを、不景気だからといってリストラしたりしない様、レコード会社
の重役の方々に切にお願いしたい。もっとも、当の本人達は重鎮とか、ベテラン
とかいった意識は全然ないだろう。このアルバムは、5年間の沈黙の後出た物だ
が、リラックスした雰囲気の大人の音楽。若いもんには負けてない。


098  RIDE ON TIME/山下達郎(1980)
RIDE ON TIME
1980年、自ら出演したCMとタイアップした「RIDE ON TIME」のヒットでつい
に山下達郎はブレイクした。この曲も都会的センスに満ちたカッコ良い曲だった
が、このアルバムもまたすごい。初めて聴いた時、日本人が作ってるとは思えな
かった。後に達郎ブランドとなるファンキーでメロウな路線が確立されているが、
これだけカッコ良く、歌謡曲臭さが全くなく、しかも日本語で歌われている、という
サウンドはとてもショッキングであった。所々に彼ならではの洋楽的センスが見ら
れ、ソロ楽器の選択などにもそれが窺える。例えば、「DAYDREAM」ではトロン
ボーン、「SILENT SCREAMER」ではティンバレスのソロが聴かれ、結構驚い
たものだ。彼が日本の音楽界に与えた影響は大きい。


099  PRINTED JELLY/四人囃子(1978)
PRINTED JELLY
1970年代の日本のロック創生期に活躍した伝説のバンドが、この四人囃子であ
る。ピンク・フロイドがディープ・パープルをコピーしたような(逆か)プログレサウン
ドで登場し、そのテクニックや構成力から生まれた作品は、今でも色褪せない名
作ぞろいである。このアルバムは、ギターが森園勝敏から佐藤満に交代しての初
アルバムだが、本当に名盤の名にに恥じない素晴らしい内容である。プログレ的
なイメージは残しつつ、よりストレート且つシンプルになったサウンドは、ほとんど
洋楽オンリーだった僕のような人間の目を覚まさせるには十分過ぎた。曲もアレ
ンジも演奏もハイレベルで、尚かつ毅然とした意志が感じられ素晴らしい。僕にと
っての理想のロックバンドの姿がここにある。それは今でも変わらない。


100  KYLYN/渡辺香津美(1979)
KYLYN
70年代終わり頃、フュージョンブームというのがあり、ジャズ系の人達によるイン
スト曲がCMに使われたりして、結構売れていた。高中正義とかネイティブ・サンと
か日野皓正とか、今では信じられないがあちこちでよく流れていたものです。現在
でも精力的な活動を続ける渡辺香津美も、フュージョンの枠で括られていたが、
僕自身は彼はフュージョンというより、もっと広い意味でのインストを追求していた
ように思える。このアルバムは、坂本龍一をパートナーに迎え、村上秀一、小原
礼、本多俊之、といった一流プレイヤーを集めて制作された、ちょっと実験的なプ
ロジェクトである。大所帯のバンドが圧倒的なテクニックとノリで迫るA面が特に
素晴らしい。フュージョンブームへの、彼なりの回答と言えるのでは。


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